新型コロナウイルス感染症の収束が見通せないなか、いまだ気の休まない日々がつづいていますが、みなさんは日々どのようにお過ごしでしょうか?
さて、アンケートや取材に時間を要してしまったため、公開するまでに時間がかかってしまったのですが、今回はみなさんからの要望が多かった【新型コロナウィルスと児童養護施設の生活】について、お伝えしたいと思います。
記事に進む前にご理解いただきたいことがあるのですが、今回はアンケートや取材をとらせていただいた職員さんの数が少ないので、これをもって全体の傾向を示すものではありません。
しかし、個別の事案ではありますが、実際の現場ではこのようなことが行われているところもありますよ、という参考としてお聞きいただければ幸いです。
施設で行われた感染対策
今回お話を聞かせていただいたのは東京都の施設で働く5名の職員さんです(それぞれ違う施設で働いています)。
アンケートの回答者が4名・インタビューの対応者が1名です。
母数の少ない調査で申し訳ないのですが、10年以上施設で働いている人の声を多く聞くことができました。忙しいなか、協力してくださった職員のみなさん、本当にありがとうございました!
早速ですが、新型コロナウィルスの感染拡大中に施設でどのような対策を行なっていたのか、みていきたいと思います。
〈行動面〉外出を控える、家族との面談を制限
〈職員さんの業務面〉リモート会議を行う
面会・訪問者の制限について
新型コロナウィルス感染拡大中はご家族との面談・外出も制限せざるを得ない状況でした。
そういった状況から、不安感を募らせた親御さんから問い合わせがあった施設もあるそうです。
うちの子は大丈夫なんですか!?
では、いつから面会等が制限され、いつから会えるようになったのでしょうか?
結論からいうと、どの施設も国や東京都の要請に則していたようで、緊急事態宣言がでてから解除されるまで、面会や訪問者を制限していたことがわかりました。
ただ、現在も制限自体は継続しており、訪問者がいる場合はマスクの着用やアルコール消毒の協力、ある施設では検温やついたてを準備して対応しているみたいです。
このまえわたしが育った施設に帰ったとき、面談室に通してもらえたものの、子どもたちの部屋にいくのはできなかったな・・・
子どもたちのストレス問題
ここで、みなさんが気になるのが、施設で暮らす子どもたちのストレス問題だと思います。
少ない母数ではありますが、実施したアンケートでは全員、「新型コロナウィルス感染拡大中、子どもたちが退屈そうだと感じることがあった」と答えていました。
子どもたちの状況
学校も休み、遊びにいく場所も制限されたなかで、子どもたちにどのような変化があったのでしょうか?
職員さんが子どもたちの様子について教えてくれました。
イライラすることが増えていました
子ども同士のトラブル…暴言や暴力が増えました
運動不足から体重が増加した子もいます
運動不足における体力低下により、転倒で骨折した子もいます
実際に、施設で暮らす高校生とやりとりをすることがあったのですが、その子はスマートホンをもっているのでYouTubeをみたりゲームをしたりして過ごしていたようですが、外に行けないストレスはあったように感じます。
不要不急の外出は控えましょうって言われてて外に出れていないです…買い物も職員が行ってるし…外に出れるのは園庭で運動してるときくらいです…
このような状況から子どもたちにストレスが溜まり、暴言や暴力、運動不足によるケガなどが増えたのかもしれません。
改善するために工夫したこと
上記のような子どもたちのストレス状態を緩和するために、どのような環境を整えていったのか、追加で質問させていただきました。
職員と話す時間を増やしたり、外出するなど、個別に対応できる時間を作りました
友だちを呼べなくて「ヒマー」と言いながらも、施設の外でバスケをしたり三輪車で遊んだり、漫画を読んで過ごすなど、子ども自身も工夫して過ごしていましたね
ストレスや子ども同士の相性などの課題が重なり、子どもや職員の移動をしました。また、精神科へ通院した子もいます。
職員さんの労働状況について
新型コロナウィルス感染拡大に伴い、学校が休校になったり通学の仕方にも変化が生じていたりしたなかで、施設で過ごす時間が増えた子どもたち。
「学校が休みの日は職員さんの人数を増やしている」と聞いたことがあるけど、この期間中も職員さんの人数を増やしたのでしょうか?
こちらも追加のアンケートで聞いてみたところ、「職員さんの1日あたりの勤務人数を増やした」という回答がありました。
また中には・・・
コロナ前からの疲労の蓄積もあってか、うつ傾向になる職員が複数名おり、休職や退職職員が複数名出たため、いまいる職員で宿直等の穴を埋めあい協力して対応しました
というような声もあり、職員さん同士で補い合いながら、子どもたちと生活を共にしている現状を知りました。
わたしが施設で暮らしている間、職員さんが急に体調を崩すと、ほかの職員さんが休みだけど出勤している、なんていうこともあったので、この期間中もさまざまな事情から時間外労働が増えたのかな〜と思います。
では、実際に、時間外労働はどれくらい増えたのでしょうか?
職員によってさまざまですが、(わたしは)30時間ほど。
おまけ|広がった支援の輪
ここまでシリアスな現状がつづいてしまいましたが、一方で、この状況下で嬉しかったことや助かったできごとがあったそうです。
その一つがマスクの寄付です。
実施したアンケートでは4名中4名がマスクの寄付が嬉しかったと回答がありました。
自由記述の欄で「前半はマスクや消毒液が不足していたため不安の中支援しました。医療従事者だけではなく、福祉の入所施設にも優先的に物品をまわしてほしかった。」とあったので、支給されたアベノマスクは福祉の現場では助かったのかもしれませんね。
また、こうした状況を踏まえて、全国児童養護施設協議会は令和2年4月30日、新型コロナウィルスの感染対応における緊急の要望書を厚生労働省へ提出しました。
そこには次の5つの要望が書かれていました。
- 衛生用品の確保と支給
- インターネットを活用した学習環境の整備
- 入所前の子どもたちのPCR検査の実施
- 施設を退所した子たちへの生活支援の対策
- 職員の負担軽減を図るため、手当の支給などの財政措置
参考:新型コロナウイルス感染症対応にかかる 児童養護施設からの緊急要望(令和2年4月30日)
その後、厚生労働省子ども家庭局は「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(児童福祉施設等分)の実施について」という通知を出し、マスクや消毒液を購入するための支援を行うよう、呼びかけました。
実際に、職員さんへインタビューをしたときに
東京都で感染予防のためのお金が支給されて、マスクや消毒液を購入できたのでとても助かった
という声を聞きました。
毎日ニュースで不安の情報が溢れているなか、国や市区町村の経済的支援はもちろん、手作りマスクの寄付や消毒液の寄付など、じぶんのできることで施設の子どもたちを応援していく取り組みをたくさん目にしたのが印象的でした。
施設をでた子とのやりとりについて
これは個人的に気になったことなのですが、期間中、施設をでた子たちとどのようなやりとりがあったのかを聞いてみました。
実施したアンケート調査で「施設を退所した子から連絡があった」と答えた職員さんは4名中4名でした。
内容は、仕事の話(クビや減給)や手続き関連、メンタル不調の相談です。
なかでも「給付金の手続きについて連絡があった」と答えた職員さんが3名いました。
施設をでた子たちの状況については次回の記事で紹介しますが、施設とつながっていたことで、じぶんが受けられる支援にたどり着いた子がいるということがわかりました。
「施設をでたら、施設とつながりが途絶えてしまう」といった声を聞いたことがありますが、つながっていたことで新たな支援にたどり着くという事実があることを忘れないでいたいと思います。
まとめ
それでは、今回の記事のまとめです!
- 面会・訪問者の制限は国や東京都の要請に則し、緊急事態宣言がでてから解除されるまで制限していた
- 4名中4名が「新型コロナウィルス感染拡大中、子どもたちが退屈そうだと感じることがあった」と答え、イライラする子・暴言や暴力・運動不足の低下から怪我をした子がでた
- 子どもたちのストレスを緩和していくために、一対一で話す時間をつくったり、でかける時間をつくったりした。なかには病院へ通う子も。
- 職員さんの時間外労働が増え、人にもよりますが30時間増えた人も
- 4名中4名がマスクの寄付が嬉しかったと回答
- 4名中4名が「施設を退所した子から連絡があった」と答え、「給付金の手続きについて連絡があった」と答えた職員さんが3名いた
いかがでしたでしょうか?
今回、施設の職員さんに現状や想いを聞いていくなかで印象に残っているのは「じぶんたちがウィルスを持ち込まないよう、緊張感をもって出勤している」という言葉でした。
わたしの言葉ではなく、職員さんから受け取った言葉をそのまま記載しますので、気になる方は最後までご覧いただければと思います。