パーマネンシー・パクトとは?支援を具体化して署名をするアフターケアの新しいツール

「あなたが困ったとき、頼れる人はいますか?」

このシンプルな質問に、多くのこどもたちはどのように答えるでしょうか?

施設を巣立った後の生活には、ご飯をどうするか、引っ越しの手続き、料理の準備など、予想以上に多くの課題が待っています。しかし、「困る」という状況が具体的にイメージできないままだと、自分がどんな助けを必要としているのかさえ気づかないまま、新しい生活を迎えることになってしまいます。

自分が何に困るのか、そして、誰に頼れるのか。

それを少しでもクリアにしておくことが、新しい環境で生活していく自分を支える大切な一歩だと思います。

今回ご紹介するパーマネンシー・パクトは、こどもたちが施設等を出て一人暮らしを始める過程で「誰が自分を支えてくれるのか」を明確にし、支援者とのつながりを見える化するための取り組みです。

例えば、引っ越しの手続きがわからないとき、ご飯を一緒に食べれくれる人がいるだけで、生活への不安が大きく軽減されます。そして、その支えがあることで、次第に自分で解決する力も育まれていきます。

今回の記事では、日本で実践が始まったばかりのパーマネンシー・パクトについて解説していきます。

いま、高校生を担当している人や自立支援担当職員さんにはぜひ、知っておいてもらいたいツールです。

知った後の活用は、現場のみなさん次第!

「こんな方法もあるのか」と思っていただくきっかけになったら嬉しいです。

パーマネンシー・パクトとは?

パーマネンシー・パクトは、直訳すると「永続的な契約」

現在は社会的養護の領域、特に自立支援の分野で導入と実践が行われています。

日本におけるパーマネンシー・パクトの議論は6年前から始まっていたみたい!

慣れない横文字だから最初は頭の中が「?」でいっぱいになったよ(笑)

まずは、このツールを日本で普及・啓発しているのNPO法人IFCA(インターナショナル・フォスターケア・アライアンス)さんの定義をみていきます。

『パーマネンシー・パクト』とは、いったい何か?

それは、サポーティブ・アダルトと呼ばれる大人が、社会的養護を離れる若者たちのために「私は、あなたにこれだけのサポートをしますよ」という約束のことです。

また、これから自立するユースが、信頼できるひとりの大人と、生涯をつうじて血のつながった親類のような関係を持てるようになるための関係づくりの手助けをするツールでもあります。

パーマネンシー・パクト日本版
ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり
p.2 第I部 Permanency Pact

サポーティブ・アダルトとは

ユースが自ら選んだ信頼できる大人のことです。  “ナチュラル・メンター”、“インフォーマルなサポーター”などと呼ばれる場合もあります。

『児童福祉施設や里親家庭を巣立つ若者たちの伴走者のためのブックレット サポーティブ・アダルト』

まだ頭の中に「?」マークが…

これから少しずつ解説していくから「?」でも大丈夫!

その後、実際にNPO法人IFCAの田邉紀華さんにパーマネンシー・パクトについて教えてもらい、初めて触れる人向けに情報を整理したのがこちらです。

  1. パーマネンシー・パクトは措置解除前と措置解除後をつなぐツール
  2. ユースが措置解除後に助けてほしいことをチェックして、それを支えてほしい大人と約束をするもの
  3. その約束をする項目を見える化したものがパーマネンシー・パクト

よって、パーマネンシー・パクトとは、社会的養護を巣立つユース(若者)が「措置解除後に助けてほしいこと」を見える化し、それを支えてほしい大人との「つながり」を保障するツールなのです。

歴史

何となく気づいている人もいるかと思いますが、パーマネンシー・パクトの実践は海外で行われ、日本に伝わってきたツールです。

「パーマネンシー・パクト」は米国の連邦レベルで活動する当事者団体Foster Clubが作成し、2007年から取り組みを開始しています。このパーマネンシー・パクトを有効に活用することで、これから社会的養護のもとを巣立つユースが、信頼できるひとりの大人と、生涯をつうじた関係を築くことができます。

IFCAでは、翻訳権と日本語版作成の許可を得て、日本の環境にあう「パーマネンシー・パクト」の作成を進めてきました

パーマネンシー・パクト日本版
ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり
p.1 この冊子を手に取るみなさまへ

実は私もちょびっとだけ、日本版パーマネンシー・パクトの作成に携わっていたんです!

この時は社会的養護の現状がよくわかっていなかったので、「これが日本初のパーマネンシー・パクトに繋がる」というのは今理解しました(笑)

パーマネンシー・パクトを見てみよう!

おさらいにはなりますが、パーマネンシー・パクトは社会的養護を巣立つユース(若者)が「措置解除後に助けてほしいこと」を見える化し、それを支えてほしい大人との「つながり」を保障するものです。

では、その「措置解除後に助けてほしいこと」を見える化するの書面はどんなものなのか見ていきたいと思います。

それが、こちらです↓

引用:パーマネンシー・パクト ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり p.8

こうやってみると厳かで「契約」感があるね

そうだよね。

でも、これはあくまでもテンプレートで、ユースと約束を結ぶ大人が一緒に作るのもOKなんだよ

まだまだ事例が少ないパーマネンシー・パクト。

「契約」のニュアンスが強いと導入しにくさもあると思いますが、日本でパーマネンシー・パクトを実践している人に話を聞いたところ、「このテンプレートのように書面に署名をして約束を交わすことはしていないです」とのことでした。

よって、この「書面」にこだわるというよりは、措置解除後にどんなサポートを望んでいるかのすり合わせをし、その約束を守るということが重要であることが分かります。

パーマネンシー・パクトをを結ぶまでの流れ

では、実際にパーマネンシー・パクトを結ぶまでの流れをみていきます。

今回は、現在のパーマネンシー・パクトの認知度を踏まえて、「施設等で働いている職員からパーマネンシー・パクトを進める」というきっかけから、約束を結ぶまでの流れを紹介します。

まず登場人物についてです。

ひとり目はユース(施設等を巣立つ若者)二人目は約束を結ぶ大人(ユースが措置解除後も頼りたい大人)三人目はファシリテーターです。

それぞれ解説していきます。

登場人物①:約束をする大人

・ユースが自分で選択した人
・ユースとの良い関係をすでに持っている人
・良いロールモデルであり、ユースが必要な支援を長期的に提供できる人

パーマネンシー・パクト日本版
ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり
p.2 第I部 Permanency Pact

登場人物②:ファシリテーター

ファシリテーターの適任者としては、児童相談所のケースワーカーや、自立支援のことを専門に行う人などが考えられます。

・パーマネンシー・パクトについて基本的な理解のある人
・ユースに対して構成な考え方と態度を持って接することができる人
・ユースが自立する際の一般的なニーズについて、洞察力を持ってい

パーマネンシー・パクト日本版
ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり
p.2 第I部 Permanency Pact

この三者が揃って、パーマネンシー・パクトを結ぶことが望ましいとされています。

流れ①|41のサポートリストを見てもらう

まずは、ホームの担当ケアワーカーまたは、自立支援担当職員から「日本の当事者ユースが考える41のサポートリスト」を手渡します

引用:パーマネンシー・パクト ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり p.10
ケアワーカー
ケアワーカー

施設を出た後、施設にどんなことを手伝ってほしいか考えてみて〜

ユース
ユース

わかったー


流れ②|ユースとリストを見る

ユースの生活状況や心理状況を踏まえて、サポートリストについて対話をする時間を作ります。

ケアワーカー
ケアワーカー

どの項目にチェックした?

ユース
ユース

んーこんな感じ

引用:パーマネンシー・パクト ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり p.10
ケアワーカー
ケアワーカー

うんうん、どれも生活していくのに必要なことだよね。

これをどの人にお願いしたいとかはある?

ユース
ユース

うーん、ホームのK先生かなぁ

でも、料理を教えてほしいのはY先生

ケアワーカー
ケアワーカー

じゃぁ、料理を教えてもらうのはY先生にお願いして、それ以外の項目はK先生にお願いしてみようか。

一緒に相談しに行く?自分で相談しに行く?

ユース
ユース

一緒に行ってほしいかも

ケアワーカー
ケアワーカー

わかった。

じゃぁ次、K先生が出勤する時に時間とってもらえるか確認してみるね。

流れ③|パーマネンシー・パクトに署名をする

ケアワーカー
ケアワーカー

いま、Rちゃんと施設をでた後に手伝ってほしいことを整理しているんですが、K先生にはこの項目を手伝ってほしいみたいで。

K先生
K先生

うんうん。これまでも一緒にやってきたもんね。

それぞれどれくらいの頻度で手伝いに行ったら良いかな?

ユース
ユース

うーん。

ご飯は大学の長期休み中だと嬉しいかな。

K先生
K先生

わかった!そうしようか。

じゃぁ、ご飯を送るのはどうしようか?

ユース
ユース

普通のおうちだとどれくらいの頻度なんだろうね。

ケアワーカー
ケアワーカー

これまでの先輩たちはね、「1ヶ月に一回の子・1年に4回・ほしい時に連絡する」みたいな感じでそれぞれだったかなぁ

K先生
K先生

施設を出てすぐの時は新生活に慣れるので一杯一杯だと思うから毎月送ってみようかね。

それで、ちょっと多いかなと思ったら減らすとかはどう?

ユース
ユース

うん、それがいい!

このように、それぞれの項目について具体的にすり合わせをしていきます。

その後、約束事が決まったら、ユースとK先生とファシリテーターとなった職員が書面にサインをします。

パーマネンシー・パクトの概念上は「用紙に署名をすること」としていますが、上記のような対話をしながらサポート内容をすり合わせしていくだけでも十分な自立支援に繋がると思いますので、施設と担当職員とで相談しながら活用ください

約束を見える化するメリット

このパーマネンシー・パクトの大きな特徴は「見える化」という点にあります。ユースが選んだ大人との関係性を具体的な形にすることで、支援の役割や期待をお互いに確認し合い、共有できるのです。

具体的に見える化された信頼関係には、以下のようなメリットがあります。

①役割が明確になる

パーマネンシー・パクトは、上記で紹介したようにユースと大人が「どんな形でサポートし合うのか」を話し合います。

たとえば、月に一度の食事、進路についての相談、一緒に趣味を楽しむ時間など、具体的な内容を共有することで、大人としての責任や役割がクリアになります。

②安心感が生まれる

ユースにとって「自分には頼れる人がいる」と実感できることは大きな心の支えです。

この安心感が、自立を後押しし、将来への不安を少しでも軽くしてくれます。

③つながりを続けやすい

見える化された約束は、単なる口約束よりも強い継続性を持ちます。

関係に変化が生じたときでも、「パーマネンシー・パクト」という形があれば、内容を見直したり調整したりするきっかけにもなります。

パーマネンシー・パクトの冊子では、この見える化の重要性について次のように紹介しています。

社会的養護のもとに身をおくユースたちの大人との結びつきは、児童相談所のケースワーカーなどの専門職との関係がほとんどですが、このような「フォーマル(公的)な関わり」は、たいてい措置解除の時に断ち切られてしまいます。

社会的養護からの自立が安全で充実したものであるためには、その前後の重要な時期に、ユースが「信頼できるひとりの大人」を確保し、その大人からサポートを受けること、そしてそのサポートが持続していくことを確認してからケアを離れることが必要です。

ユースがケアを離れた後に、信頼できる大人は実際にどんなサポートをしてゆくのか。その具体的な支援の内容を、大人とユースが話し合い、「約束事」として同意を結ぶことで、お互いの誤解が未然に防げ、ユースの将来のセーフティネットを確実なものにします

パーマネンシー・パクト日本版
ユースとサポーティブ・アダルトの生涯をつうじた、家族のようなつながり
p.2 第I部 Permanency Pact

よって、パーマネンシー・パクトは、誰に・何を・どれくらい手伝ってほしいかを見える化し同意の証として書面に署名をすることで、約束が守られることを保障しこれまでの関係がこれからも続くことを約束するツールなのです。

このプロセスによって、約束が守られる安心感が生まれ、これまで築いてきた関係性がこれからも続くことをお互いに認識することができるのです。

まとめ

  • パーマネンシー・パクトは、直訳すると「永続的な契約」。現在は社会的養護の領域、特に自立支援の分野で導入と実践が行われています。
  • パーマネンシー・パクトとは、社会的養護を巣立つユース(若者)が「措置解除後に助けてほしいこと」を見える化し、それを支えてほしい大人との「つながり」を保障するツール
  • ユースが選ぶ大人は「ユースが自分で選択した人」「ユースとの良い関係をすでに持っている人」「良いロールモデルであり、ユースが必要な支援を長期的に提供できる人」が想定されます
  • ファシリテーターの適任者としては、児童相談所のケースワーカーや、自立支援のことを専門に行う人などが想定されます
  • パーマネンシー・パクトの概念上は「用紙に署名をすること」としていますが、対話をしながらサポート内容をすり合わせしていくだけでも十分な自立支援に繋がると思いますので、施設と担当職員とで相談しながら活用ください
  • 紙面で見える化するメリットとしては、誰に・何を・どれくらい手伝ってほしいかを明確にし、書面に署名をすることで「約束の証」として残せる点。このプロセスによって、約束が守られる安心感が生まれ、これまで築いてきた関係性がこれからも続くことをお互いに認識することができます

いかがでしたでしょうか?

私はこのツールをきっかけに施設を出たあとのことを職員と話をするだけでも、とってもありがたい時間だなぁと思っています!

「いつでも相談してね」よりは、具体的に「施設を出た後、K先生とたまにご飯食べたい!」とかすり合わせしたかったな…(泣)

現場でこのツールを活用する際には、こどもたちの個別の背景やニーズを考慮しながら、「41のサポートリスト」を手渡すことが大切です。

同時に、パーマネンシー・パクトをどのように応用するかは、みなさんの創意工夫にも委ねられています。日々の関わりの中で、どのように効果的に活用できるかを模索しながら使ってみてください!

もし、この記事をご覧になっている方の中で、パーマネンシー・パクトを現場で活用した際の工夫やアイデアがありましたら、ぜひコメント欄で教えてください。

パーマネンシー・パクト以外にも自立支援の実践があれば、ぜひ教えてね!

みなさんの経験や知見を共有することで、間接的ではありますが、ケアワーカー同士のつながりも作っていきたいからです。

次回以降も、児童養護施設を含む社会的養護の現場で働くケアワーカーに役立つ情報を発信してきます!

ぜひたまーに覗きにきてくださいね!

職場での記事紹介もドシドシどうぞっ!

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