新型コロナウィルスと社会的養護経験者

今もなお、終息の見通しが立たない新型コロナウイルス感染症。

その感染拡大の影響によって、様々な世帯の中でも、とくに貧困世帯が影響を受けていると言われており、さらなる経済格差拡大が懸念されます。

そのような状況のなか、親元を離れて暮らす子たちについて、次のような声がSNS上で飛び交っていました。

オンライン授業などが進められる中で、施設におけるパソコンやインターネット環境の整備不足から教育格差が助長されるんじゃないかな〜

両親・親族に頼れない施設退所者は緊急事態宣言によって仕事を失い、社会的・経済的にも孤立してしまうじゃないかな…。

そして、そのような懸念を踏まえて、施設にパソコンを届ける団体施設退所者に食料を届ける団体など支援の輪が広がっていきました。

今回は、そのなかでも

コロナの影響で生活が困窮している施設を巣立った若者の生活を支えたい!

という想いのもと、クラウドファンディングで「つなぎ給付」と「食料サポート」を実施した「一般社団法人Masterpiece」さんへの取材を通して見えてきた、コロナ禍における児童養護施設退所者などが直面した現状や課題についてお伝えしたいと思います。

支援を求めてきた若者たちとは

まず、Masterpieceさんの支援に応募した若者たちの状況について整理していきたいと思います。

応募者の性別は62%が女、38%が男。

応募者の年代をみてみると46%が未成年となっていることがわかります。


つづいて社会的養護のうち、どの環境で育ってきたのかを見ていきます。

日本における社会的養護の形態別人数割合と比べると、基金への応募者は児童養護施設を退所した子に少しだけ多く偏っていることがわかります。

応募者の内訳で児童養護施設が多いのは、日頃からサポートしているMasterpieceさんだからですかね!?

まりっぺ
まりっぺ

里親家庭が少なかったのは、里親家庭のフォローが受けられていて困窮に陥っている方が少ない可能性もあったからかもしれません。一方で、応募をしてくれた里親家庭の出身者は里親さんを頼れないという状況の方もいました。


施設出身者の方が困窮に陥りやすいという現実はあるかなと推測しています。


つづいて、応募者の学歴についてみていきます。

応募者の学歴をみてみると4人に一人が中卒で就労している実態が明らかになりました。

一方で東京都の児童養護施設や里親家庭などを巣立った人たちの最終学歴をみてみると中卒者の割合は14.9%となっています。

人数にすると6.7人に一人が中卒であるのに対して、基金に応募した人は4人に一人が中卒。

まりっぺさんも「今回の緊急基金では低学歴による貧困が目立った」と言っていました。


つづいて、応募者の雇用状況についてです。


一見、非正規雇用者の割合が高いように感じると思いますが、そのことについては後程記述します。

そして最後に、どのようなきっかけで応募に至ったのかをみていきます。

任意回答のアンケートのため、「回答なし」が半数以上を占めていますが、なかでも「紹介してもらって応募した」という人が30.4%いることがわかります。

まりっぺ
まりっぺ

任意の質問事項だったため、無回答が一番多かったけど、少なくとも30%は紹介ですね!

基金に応募した若者たちのほとんどが、ボランティアさんや施設職員さんといった「何かしらの縁を頼ってたどり着いてきた」ということが印象的でした。

「親を頼れない」若者たちの声

基金に応募した若者の背景が見えてきたところで、緊急基金に応募した若者の声を聴いていきたいと思います。

わたしのなかで印象に残っているのは「親を頼れない」ことで葛藤し、苦しんでいる声たちでした。


22歳
22歳

いざ、経済的に厳しくなった時に親族には頼れないしんどさ。

20歳
20歳

家をいつ失ってもおかしくない状況。失ったら家を借りる財力がないし、保証人も用意できないので、本当に生活が苦しいです。

20歳
20歳

親はいないし、施設の先生たちは優しけど忙しいのを知ってるから自分から頼れないし、自立援助ホームからは「退所したら関係ない」と言われ頼れません。


ここで、若者たちの声に対する個人的な意見を述べるつもりはありませんが、みなさんのなかでこの言葉たちをじっくり飲み込んでもらえたらと思います。

高い非正規雇用率による影響

基金応募者の非正規雇用率

ここからは「非正規雇用率の高さによる影響」ということで、いくつかデータを紹介していきます。

最初に日本における雇用形態の割合をみていき、つづいて社会的養護を経験した人の雇用形態、最後に緊急基金に応募した若者たちの雇用形態についてみていきます。

まずは、日本における雇用形態別の割合です。

15~24歳の雇用者は正規雇用率が49.1%、非正規雇用率が50.9%となっており、非正規雇用者のほうが若干多くなっています。

一方で25~34歳になると正規雇用者が75.2%に増加し、非正規雇用率が24.8%になります。

つづいて、児童養護施設や里親家庭などを巣立った子たちの雇用形態をみていきます。

平成29年「東京都における児童養護施設退所者の実態調査全体版」によると、正規雇用者が45.2%、非正規雇用者が46.8%となっています。

東京都の調査では過去10年の間に退所した人たちの回答となっているので、年齢でいうと15~28歳の人たちになっています。

一方で、緊急基金の応募者の雇用形態は、正規雇用者が30.3%、非正規雇用者が67.9%となってます。

※基金応募者の1.8%は個人事業主

日本における雇用形態と比較して、緊急基金に応募した人たちの非正規雇用率の高さがわかります。

そのほかには、次のような職種の人が応募していたそうです。

仕事の職種例
タクシードライバー・介護職員・保育士・クリーニング・IT系・資源回収・娯楽施設

非正規雇用と飲食業

細かい割合については追えていないのですが、基金応募者のうち「飲食業・コンビニ」で働いている人が多かったそうです。

株式会社マイナビは2020年6月12日、現在非正規雇用として働く男女(年齢:15~70歳)を対象とした、「新型コロナウイルスによる非正規雇用への影響調査【就業者篇】」の結果を発表しました。

その調査によると、就業に関して新型コロナウイルスにより何かしらの影響を受けたと回答した割合は50.4%、職種別にみると「飲食・フード(接客・調理)」が最も高く78.8%となっています。

非正規雇用で飲食店に勤める、約8割の人の収入が減ったということになるね・・・

そして、新型コロナウィルスの影響による雇止め・解雇の内、約6割がアルバイト・派遣社員といった非正規雇用であり、職種別でみると約8割が飲食業となっています。(NHK「解雇や雇い止め 非正規雇用で働く人が6割占める 新型コロナ 2020年6月10日」

新型コロナウィルス感染拡大の前から、飲食業というのは非正規雇用率の高い仕事でした。

よって施設退所者は潜在的に、雇止め・解雇に合う確率が高いということになります。

学生と労働者の差

ここからはこのような現状に対して行われた「支援」について見ていきます。

新型コロナウィルス感染拡大に関しては学生・就労者、両方に金銭的な支援がありましたね。

ここで注目したいのが、申請方法です。

学生は自分で申請できる追加の給付金がありましたが、就労者の場合は雇用調整助成金など、雇用主が申請してくれなければ追加の支援を受けることができない構造になっています。

児童養護施設や里親家庭を巣立った子の多くは就労の道へ進むので、緊急基金に応募した若者は支援の現状についてこのように言っていました。

19歳
19歳

施設出身者の支援も、国の支援も学生ばかりに集中していて、施設出身者の働いている人への支援が少ないです。

20歳
20歳

事業者だけじゃなくて、個人の就労者にも給付金がほしいで す。学生ばかりの支援が目立ち、ぼくたちは見落とされて います。

SNSをみていても、「対象者:社会的養護出身の学生」という基金が多く、就労している子への支援は圧倒的に少ないと感じました。一方で、就労している人への支援の必要性を客観的に示すのは難しいのかな〜と個人的に感じています。

学生への支援

日本学生支援機構

 対象  すでに大学等に在学している人

 概要 予期できない事由により家計が急変し、急変後の収入状況が住民税情報に反映される前に緊急に支援の必要がある場合には、急変後の所得の見込みにより要件を満たすことが確認されれば給付奨学金の支援対象となります。

朝日新聞厚生文化事業団

 対象  社会的養護の出身で日本国内の大学、短大、専門学校等に応募時点で在学中の学生。

 支援内容 1人一律5万円(返還不要)

 特徴 緊急応援金の給付を希望する学生は「申込書」を記入し、合わせて、施設職員、里親が直筆で記入・押印したものを提出して申請を行う。

※今後の学びの環境を整えるための費用等として。
※本事業は、高校卒業資格のある方が対象です(高等学校卒業程度認定試験合格者を含む)
※社会的養護とは、児童養護施設、里親家庭(ファミリーホーム)、自立援助ホーム、子どもシェルターとします。
※一時保護でのみ社会的養護を利用した方は対象になりません。
※措置延長中の方、自立援助ホームなどに現在入居中の方も対象になります。
※養子縁組をしている場合は対象になりません。

就労者への支援

緊急小口資金

 概要 主に休業された方向け

 対象  新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、休業等による収入の減少があり、緊急かつ一時的な生計維持のための貸付を必要とする世帯

※新型コロナウイルス感染症の影響で収入の減少があれば、休業状態になくても対象

 貸付金 20万円以内(無利子・保証人不要)

総合支援資金

 概要 主に失業された方向け

 対象  新型コロナウイルスの影響を受けて、収入の減少や失業等により生活に困窮し、日常生活の維持が困難となっている世帯

※新型コロナウイルスの影響で収入の減少があれば、失業状態になくても対象

 貸付金 (無利子・保証人不要)
二人以上世帯:月20万円以内
単身世帯:月15万円以内

 貸付期間 原則3月以内

支援に関する若者の声

新型コロナウィルス感染拡大につき、国や民間団体でさまざまな基金が立ち上がりましたが、受給までの道のりでつまずいてしまう人もいたそうです。

23歳
23歳

事務手続きが多すぎる。 もっと簡略して申請、審査が出来るようにはならないのか。

21歳
21歳

政府との連携を適切に行ってほしい。国が使えると言ったものも、役所では断られたことがあるから。

「なにか状況が変わる」…そう思って行動したのに、申請するまでの過程で気持ちを削がれてしまった人がいることを知り、もどかしい気持ちになりました。

まとめ

今回の件で明らかになったのは、近年、進学率を上げようと進学者への支援を拡充してきましたが、中卒で働いている人などにあまり目が向けられてこなかったことです。

しかし、これからも進学率を上げるために、進学者への支援はどんどん拡充していくことになります。

一方で、まだ目を向けられていない、中卒・高卒で働いている人に関する支援も今後は新たに考えていかなくてはいけないと思います。

特に未成年で働いている人の支援は急務です。

そうした現状があるなか、今回のように「何かしらのつながり」が緊急時におけるセーフティーネットの役割を果たしたのも事実です。

「進学か就職か」で受けられる支援が変わってくる現状に憤りを覚えた、この気持ちを忘れずに、今後も支援や現状の発信をつづけていきたいと思います。


一般社団法人Masterpieceについてはこちらをご覧ください!お忙しい中、ご協力ありがとうございました!!

一般社団法人Masterpiece公式ホームページ

【コロナの影響で生活困窮…】施設を巣立った若者の生活を支えたい!!!

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