みなさん、こんにちは!
今回のテーマは社会的養護とスマートフォンです。少し前になりますが、みなさんはこちらのニュースを覚えていますでしょうか?
児童養護施設に入所する子どもらのスマートフォンの所持を巡り、厚生労働省が昨年10月、各施設に国などが分配している「措置費」と呼ばれる予算から端末代や通信料を支出してもよいとする指針を文書で示していたことが10日、関係者への取材で分かった。以前から禁止はしていなかったが、コロナ禍で教育のオンライン化が加速したことなどを受け、国として初めて明確に方向性を示した形だ。
「養護施設の子にスマホ国費で 厚労省初指針、教育オンライン化(共同通信)」
このYahooニュースにはコメントが967件(執筆日:2023年7月6日時点)。NPO法人児童虐待防止全国ネットワークの高祖常子(こうそ ときこ)さんもコメントをし、施設職員や社会的養護を経験した人たちのなかでも大きな話題になりました。
正直にいうと、リアルタイムでこの話題についていけてなかったのですが…社会的養護の子達にスマートフォンを無償で貸し出しているNPO法人スマホ里親ドットネットさんとの出会いを機に、ようやく「調べてみようかな」という意欲が湧いてきました。
そこで今回は、児童養護施設で暮らしている子どもたちのスマートフォンについて、厚生労働省が公開した事務連絡の内容とスマートフォンを持つための予算がどうなっているのかをご紹介したいと思います!
スマホ代について「うちの施設はこうしてます」を教えてくださるかたはぜひコメント下さい!
まだまだ知ったばかりで誤った認識の可能性もありますので…
児童養護施設のスマートフォン事情
まずは、親元を離れて児童養護施設で暮らしているこどもたちのスマートフォン事情について見ていきます。
今回引用するのは、2019年2月にNPO法人スマホ里親ドットネットさんが関東(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の児童養護施設131ヶ所を対象にしたアンケート調査です。
加えて、児童養護施設以外の状況についても捉えていくために、内閣府が行っている『青少年のインターネット利用環境実態調査』をもとに現状を見ていきたいと思います。
どんな結果になるんだろう…(ドキドキ)
スマートフォンの所持率
上記二つの調査結果によると、児童養護施設に住む高校生のスマートフォン所持率は69.3%(648人)であるのに対して、全高校生では98.9%。一般家庭ではほとんどの高校生がスマホを持っていることがわかります。
児童養護施設に暮らす高校生では約3割がスマホを持っていないのは驚きだね!
Wi-Fi環境
つづいて、Wi-Fi環境についてです。
児童養護施設で暮らす高校生の場合、Wi-Fi環境が整っていると回答して割合は25.6%。また内訳として、条件や時間帯の決まりがある施設が多く(18施設)、純粋に利用できる施設が3施設しかありませんでした。
一方で全高校生では、94.5%がWi-Fi環境を有しており、ほとんどの家庭においてWi-Fi環境があることがわかります。
自宅に住んでいて親からWi-Fi接続に関する制限を課せられることは稀かと思うので、その点においても大きな差があるね…
スマホ代の支払い元について
そして、とくに差が出たのが通信費の支払い元についてです。
児童養護施設で暮らす高校生では87%が通信費を自分で支払います。一方で、引用のデータが2008年と少し古いですが、全高校生では支払い元が保護者という高校生が85.1%で、逆に自分で支払う場合は5.6%となり、施設で暮らしている場合と比較して逆転しており、環境に大きな差があります。
以前、施設の職員さんとお話しましたが「自立」という名目でスマホ代を自分で払わせるのはどうなんだろうね…という会話をしました。一般家庭では保護者が支払うことが多いんですね。
スマホ代に関するこども家庭庁の動き
児童養護施設のスマートフォン事情がわかったところで、最近の国の動きについて見ていきます。
まずは、厚生労働省(現在はこども家庭庁へ移管)が公開した事務連絡の内容について、時系列に沿ってみていきます。
厚生労働省は令和元年10月28日に、特別育成費という予算のなかでスマホに係る費用を計上できるようになったことを記載した通知を自治体向けに配信しました。この通知を受け取った自治体は各施設に転送をするという流れです。
「この通知をみたい!」と思い、こども家庭庁の支援局家庭福祉課措置費係の人に確認したところ、自治体・関係施設向けの資料のためホームページ等での一般公開は無いとのことでした。残念…
通知の配信先を確認したあとに、今回の通知の内容やこれまでの予算組について質問をしてみると、丁寧にご回答くださいました。
これまでは措置費の中でも一般生活費という予算組のなかで端末代や通信代を出せることになっていました。ただ、新型コロナウィルスの感染拡大でオンライン学習を受けるための環境整備に端末代や通信費が必要になったことから、「特別育成費」という別の予算組でもスマホに係る費用を計上できるようにしました。
その後、令和2年5月15日に施設からの質問に答えるQ&Aを配信。
詳しくは最後にご紹介します!
Q.児童養護施設の高校生が、施設でオンライン学習を受けるためのパソコンの購入やインターネット・スマートフォン通信料など、オンライン学習に係る費用について、特別育成費の支出項目として認めて差し支えないか
その5日後に、追加質問を一つ加えた事務連絡を配信しました。
Q.オンライン学習など学習目的以外に、例えば、学校生活(クラブ活動や学 校行事等)における連絡調整や友達との交流などに使用した場合の通信料に ついては、特別育成費には計上出来ないのか。
児童養護施設との対話後すぐに、小中高生のスマホ利用料について予算を増やす方向性を示したこども家庭庁。
高校生については「特別育成費」の拡充を、小中学生については「学用品費」という予算を拡充する方向で検討していることがわかりました。
こども家庭庁は、児童養護施設で暮らす小中高校生に、月額のスマートフォン利用料を支援する方向で調整に入った。スマホは情報収集や学習ツールとしてのメリットも多く、家庭環境によらずに学習の機会を確保する狙い。来年度の当初予算案に盛り込む方針で、年内にも支援額を決定する。
引用:児童養護施設の小中高校生にスマホ利用料支援へ…こども家庭庁、学習機会確保狙い月額数千円
読売新聞 2023年8月8日
②と③については、厚生労働省の情報開示のなかでも「児童養護施設等における新型コロナウィルス対応関連情報(自治体向け)」に掲載があるので、こども家庭庁の職員さんが回答してくださったように感染症拡大中の事務連絡であることがわかるね。
ただ、メディアの記事やSNSで大きな話題になったのは令和4年1月10日。通知の配信から数年経っています。
この時差についての憶測ですが、現場以外の関係者がこの話題に関心を寄せたことが大きな話題に繋がったのだと感じます。それとも現場職員も通知については知らなかったのかな…(それはないか)
児童養護施設で暮らす子どものスマホ代の財源
スマホ代に関する厚生労働省(現:こども家庭庁)の動きについてわかったところで、みなさんが気になるであろう予算についてみていきたいと思います。
社会的養護の施設におけるスマホの話になると、急に「施設によって違う」という色が強くなりますが、措置費って全国一律なんじゃないかなぁといつも疑問に思います。
全部は解明できないけど、財源について一緒にみてみよう!
まずは、スマートフォン代を計上できる予算について紹介します。
いままでの財源
基本的に児童養護施設等で暮らしている子どもたちの生活や教育に係る費用は「措置費」と呼ばれ、大きく分けて3つの場所から費用が捻出されています。
一つ目は国、二つ目は都道府県、最後三つ目は市町村(政令指定都市・中核市・その他市町村)です。
この3つの区分ごとに負担割合が決まっており、施設がある地域の税金によって、子どもたちの生活費等が施設に支払われています。
厚生労働省の資料によると、この事業費には一般生活費、教育費、学校給食費、見学旅行費、入進学支度金、特別育成費、夏季等特別行事費といった予算が含まれています。
その言葉の通り、学校の給食代や入学に係る費用が含まれているよ。ちなみに夏季等特別行事費は小中学校で実施される修学旅行代の予算のこと!
なかでも、子どもたちの日常生活に関する経費は一般生活費という予算に該当し、この予算にスマートフォン代を計上できることになっています。
一般生活費とは子どもたちの食費、被服費、靴代、日用品代、お小遣いです。
生活に関する費用のなかでスマホ代も出せるというのは、わかりやすいね。
新たな財源
つづいて、今回新しく事務連絡が配信され、スマホ代を出して良い予算となったのが「特別育成費」という予算です。
では、特別育成費とはどんな予算なのでしょうか?
特別育成費とは高等学校に在学中、あるいは進学した子を対象にした経費です。
具体的にいうと、学校の授業料や部活動に係る費用、教科書代や通学の定期代も含まれます。また、進学するタイミングで必要な制服代やスクールバックを買う予算も特別育成費に該当します。
①教育に必要な授業料、クラブ費等の学校納付金、教科書代、学用品費等の教科学習費、通学費等
②高等学校入学に際し必要な学用品費等
第四 各月の支弁額の算式及び支弁の方法
二 措置費等の費目の使途及び各月の支弁額の算式
(8)特別育成費 経費の使途第3欄
特別育成費は高校生を対象にした予算なんだね!
その上で施設側からはこんな質問があがっていました。
- 児童養護施設の高校生が、施設でオンライン学習を受けるためのパソコンの購入やインターネット・スマートフォンの通信料など、オンライン学習に係る費用について、特別育成費の支出項目として計上できますか?
- はい、計上して問題ないです。
特別育成費は、児童養護施設等に入所する児童の高校在学中における教育に必要な学習費等を支援するもので、オンライン学習に対応するためのパソコン・Wi-Fi機器等の購入やインターネット通信料等については、入所児童の学習機会の確保に必要な経費と考えられることから特別育成費に係る経費のうち「その児童の高等学校在学中における教育に必要な授業料、クラブ費等の学校納付金、教科書代、学用品費等の教科学習費等」として取り扱って差し支えない。
児童福祉法による児童入所措置費等国庫負担金(特別育成費)の取扱いについて
令和2年5月20日 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課
- オンライン学習など学習目的以外に、学校生活(クラブ活動や学校行事等)における連絡調整や友達との交流などに使用した場合の通信料については、特別育成費には計上できないですか?
- はい、計上して問題ないです。
主に学習目的として使用されているのであれば、学校生活における連絡調整や友達との交流などの用途に使用している場合であっても特別育成費に計上して差し支えない。
令和2年5月20日 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課
児童福祉法による児童入所措置費等国庫負担金(特別育成費)の取扱いについて(補足)
「これでも予算が足りない」のはどうしてかなって思う…
たしかにそうだね。
でも、予算について何もわからない状態から、ここまで理解できたのは大きな一歩だね!
それはそうだ!
既存の予算から捻出ができるようになったのは朗報!
まとめ
ということで、今回の記事のまとめです!
- 施設のこどもたちのスマートフォン所持率は60.9%(648人)で全高校生は98.9%。
- 児童養護施設で暮らす高校生の場合、Wi-Fi環境が整っていると回答して割合は25.6%。また内訳として、条件や時間帯の決まりがある施設が多く(18施設)、純粋に利用できる施設が3施設しかありませんでした。一方で全高校生になると、94.5%が自由に接続できる環境にある。
- 児童養護施設で暮らす高校生では87%が通信費を自分で支払います。一方で、引用のデータが2008年と少し古いですが、全高校生では支払い元が保護者という高校生が85.1%で、逆に自分で支払う場合は5.6%となり、施設で暮らしている場合と比較して逆転しており、環境に大きな差があります。
- 現状、児童養護施設で暮らすこどもたちのスマートフォン代は一般生活費と特別育成費という予算から捻出することができます。
- しかし、新たな予算組ができたところで捻出が難しいという施設があります
いかがでしたでしょうか?
国の通知によって、新たに「特別育成費」という予算で高校生がスマホを購入できるというのは朗報です。
実際に児童養護施設で暮らしていた私は「自立の準備資金を貯めるため」という目的はありましたが、スマートフォンを持つためにアルバイトをしていた節があります。実際にスマホを持てたのは高校3年生でしたが…
高校生の大切な余暇時間を「自立」の一言で制限するのではなく、施設にいながら安心安全が担保され、ほどよい挑戦ができる環境に変わりつつあるのを感じます。
また、読売新聞に掲載された最新情報によると、小学生や中学生についても学習目的で利用するためのスマホを持てるよう予算の上乗せをすることが検討されていることが報じられました。
(中略)一方、小中学生の学用品費は、小学生が月2210円、中学生が月4380円で、スマホ代の捻出は難しい。同庁はスマホを主に学習目的で利用するよう施設に求める考えだ。
読売新聞(2023年8月8日)
児童養護施設の小中高校生にスマホ利用料支援へ…
こども家庭庁、学習機会確保狙い月額数千円
財源についてはよくわからないけど、小中学生のスマホについても現場の職員さんに話を聞いていきたいね!
活動をつづけながら、少しずつ財源についても勉強をしていこう!