みなさん、こんにちは!田中れいかです。
今回はクラウドファンディングの応援企画として、一般社団法人ヤングケアラー協会の宮﨑成悟さんにお越しいただきました!
みなさんと一緒にヤングケアラーの現状や課題、社会的養護との接点を知りながら、なぜこのプロジェクトをしているのかを聞いていけたらと思います。
宮﨑成悟さんのプロフィール
一般社団法人ヤングケアラー協会代表理事。元ヤングケアラー。15歳の頃から難病の母のケアを担い、大学卒業後、国内大手医療機器メーカーに入社。3年で介護離職。その後、株式会社エス・エム・エス、株式会社JMDC等複数社を経て、2019年にYancle株式会社を設立。ヤングケアラーのオンラインコミュニティ、就職・転職支援事業を行う。同事業の形態を変え、一般社団法人ヤングケアラー協会を設立。厚生労働省・文部科学省のヤングケアラープロジェクトのオブザーバー参加。厚生労働省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」検討委員会 委員。著書『ヤングケアラーわたしの語り』『Nursing Today ヤングケアラーを支える』等。
(聞き手 / 田中れいか)
ヤングケアラーとは
ーヤングケアラーとは何歳くらいのどんな状態の子どもたちのことを言うのでしょうか?
宮﨑成悟(以下、宮﨑):今日本で一番普及してる定義の中では18歳未満の子どもたちとなっています。中には子ども若者ケアラーと呼び方を変えて25歳までを対象としている地域もあって、支援の対象年齢として18歳なのか25歳なのかと言う点は議論されているところです。
ヤングケアラーの定義としては日本ケアラー連盟さんが発表しているものがよく使われています。
家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものこと。
日本ケアラー連盟ホームページより
そして18歳からおおむね30歳未満を若者ケアラーと呼んでおり、30歳あるいはおおむね30歳代と、ここも議論されているところです。
ちなみにオーストラリアでは25歳未満をヤングケアラーと呼び、イギリスでは18歳以降をヤングアダルトケアラーと呼んでいます。
ーヤングケアラーの人数でいうとどれくらいいるのでしょうか?
宮﨑:令和3年3月に厚生労働省の調査が公表されたのですが、クラスに1人から2人くらいはいると言われています。
ーそう考えると多いですね。
宮﨑:そうですね。ただ、ヤングケアラーそれぞれに状況のグラデーションがあって、学校に行けなくなりそうなくらい負担の高い人と手伝いだからそこまで負担を感じていないというヤングケアラーも含まれています。よって、一概にクラスに1人から2人いるからと言って全員が困難を抱えているわけではないですが、それくらい悩みを抱えている人はいるだろうと言われています。
ーここで、埼玉県が実施した埼玉県ケアラー支援計画のためのヤングケアラー実態調査(令和4年11月25日)を紹介します。
僕が出会ったヤングケアラー
ーヤングケアラーというのは多種多様ということなのですが、実際どんな子たちがいるのでしょうか?
宮﨑:一番わかりやすいのは認知症のおばあちゃんのケアをしている人とか、交通事故によって高次機能障害等になったご両親をケアしている人、あとは耳の聞こえない両親のもとで生まれた子どもたちですね。
あとはすごいいろんな状況が絡み合っているようなことで言えば、弟さんが自閉症でお父さんがアルコール中毒というご家庭とか、ひとり親でお父さんなりお母さんが精神疾患みたいなケースもすごく多いです。
支援の必要な子に繋がれないという課題
ー現在、宮﨑さんはご自身の経験から国や行政の会議に出席されているとお聞きしましたが、その中で課題と感じていることは何ですか?
宮﨑:行政としても支援が始まったばかりなのでここからではあるんですけど、支援が必要な子どもになかなか繋がれていないのが課題かなと思っています。
まだまだ啓発が足りなかったり、啓発の先にヤングケアラーと繋がれる先みたいな場所も少なかったりしています。
ー今、撮影しているのがさいたま市なのですが、さいたま市では2022年7月1日に「さいたま市ケアラー支援条例」が施行されました。この関連事業として、ヤングケアラーのご家庭に支援員を派遣する予算がつけられ、進んでいる自治体とそうではない自治体とで差が出てしまうというのは一つの懸念点ではありますよね。
宮﨑:でもさいたま市さんのように条例を作って、チーム一丸となって支援していこうっていう流れは良いですよね。
ただ、これからの自治体ではヤングケアラーの所管をどこにするのかという問題があると聞いています。ヤングケアラーって子どもの部署だけでなく、高齢や障害の部署にも関わるので。今後いろんな自体がやっていかなければいけないのですが、自治体にも温度差があって課題だらけではありますね。
あとは冒頭、支援の対象年齢について議論しているとお話ししましたが、18歳になったらどうなるのかという課題もあります。
ー宮崎さんは当時、自分がヤングケアラーだとは知らなかったし、介護しているとも思っていなかったっていうことだったんですが、現在、支援の波が来ていることについてどう思っていますか?
宮﨑:当時「ヤングケアラー」という言葉がなかったので自覚しようにもできなかったのですが、僕の場合は家族の異変みたいのは気づいていました。
母がけっこう重い病気になったので母が病気になったこと自体は自覚していましたが、それがケアだと知ったのは高校を卒業したあとでしたね。
現在支援の波がすごく来ていますが、自分は15歳からだいたい30歳ぐらいまで母のケアをしてきたわけですけど、その中でずっと支援がほしかったわけではないです。この時は本当に辛かったとかポイントがあったんですよね。
なのでこの流れの中でも「無理に支援しよう」「助けよう」とかではなく、周りの人で見守りつつ、本人が助けを求めた時にすぐに相談できたり支援を受けられたりする仕組みが必要だと感じています。
あと、ケアをしていること自体は全然悪いことじゃないんです。先ほどの埼玉県の結果でもあったように「生活に影響がない状態」で本人が辛いと思っていなければ別にいいことだと思うんですけど、負担が重くなりすぎて学校に行けなくなる・友達と遊べなくなる・部活に参加できなくなる・将来を諦めてしまうといった状況になってしまうのがすごく問題なんですよね。
ーインタビュー前に「ヤングケアラーというのは状態」ということを教えてもらったのですが、その状態によって諦めてしまうことってどんなことなのでしょうか?
宮﨑:例えば、進学を諦める・自分の好きなことをやるのを諦めるなど、たくさんのことを諦めるケースがあります。
僕も大学進学を諦めたり、大学行ったあと実は陸上とか駅伝をやりたかったんですけど部活に入るのも諦めました。あとはバイトをする時間がないので諦めましたし、大学時代サークルも入りたかったんですけどそれも諦めました。
そんな感じで、普通この年代でできることができないみたいな、そういう状況はあるかなと思います。
ー今回勉強するにあたって「子どもが子どもでいれる時間を奪っている」という言葉がすごく目についた印象がありました。子どもらしさとか若者らしさってヤングケアラーに限らず堪能できていない子もいると思いますが、そのあたり感じていることはありますか?
宮﨑:さっき申し上げたように、ケアをしていること自体は別に子どもの時間を奪っているわけではないです。ただ「それって大人がやるべき責任を子どもが負っちゃってるよね」とか「子どもが自分の時間を過ごせない」っていう状況は子どもが自分らしく過ごせていないことだと思います。
なので過度になって「ヤングケアラーを家族から引き離すべきだ」とか「ヤングケアラー全員が子どもらしく過ごせていない」というのは少し違います。そういう決まった存在ではなくて、いろんな人がいるんですよね。だからケアの負担が重くなりすぎてしまうことがいけないですし、負担が軽かったとしても重くなる前に支援につながることが大切だと思っています。
ー社会的養護っていうのも、ネガティブな情報を出そうと思えばいっぱい出せますが、その数字や状態、概要を見て「施設出身者はこうだ」と言われるとそれは違うと思います。ヤングケアラーについても同じかもしれないですね。
宮﨑:そうですね。施設出身者の中にも多分いろんな人がいると思うんですけど、それを一括りにして「かわいそう」と決めつけるのは違うと思うし、ヤングケアラーについても同じだと思っています。
社会的養護とヤングケアラーの交差点
ー続いて社会的養護とヤングケアラーの繋がりや関係性、実際に出会った子がいれば教えていただきたいです。
宮﨑:ヤングケアラーはいろんな人がいますって話をしましたが事例でいうと、お母さんが躁うつ病でその子が寝ている間にリストカットしてしまっている家庭状況の子がいました。躁うつ病なので大丈夫な時もあるのですが。
あとは親がアルコール中毒だとして、夜中に暴れて暴力をするとなると社会的養護へつながることもあったりしますね。
ー暴力というのは虐待にあたりますからね。
宮﨑:割と虐待やネグレクトが混ざっているような事例というのは、ケアの負担の高いところではよく起きてることかなと思います。
相談しないを越える支援策を
ー実際さまざまな自治体が予算をつけて支援していこうという流れが来ていますが、今後どのような支援が行われるのでしょうか?
宮﨑:これから行われる支援は大きく4つあります。啓発・ピアサポート・ヤングケアラーコーディネーターの配置・オンラインサロンをやった自治体に対して国から補助が出るという内容になっています。
ーそうなんですね。現在ヤングケアラー協会が挑戦するクラウドファンディングでは、具体的にどんな支援を考えているのでしょうか?
宮﨑:プロジェクトではLINE相談窓口をつくるためのお金を集めています。LINE相談は各自治体が主体となって進めていくのですが、中身の設計については私達が作るということになっています。その中身の設計をするのに費用が必要なんです。
なぜこれをやっているのかと言うと、ヤングケアラーってなかなか相談しないと言われているんです。厚生労働省の調査では「相談するほどのことではない」とか「相談したいと思えないから相談しない」という声が出ていました。
当時の僕を振り返っても同じで、相談してって言われても「何を言ったらいいんだろう」という感じで悩みが顕在化しておらず、具体的にこれを助けてっていうこともないので相談しないんだと思います。なので、もし相談窓口を作ったとしても相談しないと思うんですよ。
そういうこともあって相談窓口をつくるにあたって仕組みが必要だと思っています。こちらから声をかけて関係性を築いていくことや他の人の状況について知れる情報発信をしていくこと、あとはチャットボットを通して自分の状況を知れる仕組みがないといきなり何もないLINE相談窓口に相談しろと言われても難しいと思うんです。
例えばですが、ミニゲームや占いがあってもいいじゃないですか。そのLINEアカウントを見るようになっていろいろ発信してくれるし定期的に声がかかるから相談しようって思えたら、それがあるだけで安心できる。いつでもそこに頼れる場所を作りたいと思っています。
ーミニゲームや占いは最初のきっかけとしていいですね。
宮﨑:なんか相談窓口って言われるとすごく重くないですか?相談窓口として繋がっているのではなくて楽しいから繋がってるけど、その中で相談もできるみたいな、そういう感じのものを目指してますね。
ー現在これからの子ども政策として、ネット上でのアウトリーチやプッシュ型の支援が必要と言われているので、その点を含めた窓口を作りたいということなんですね。
宮﨑:はい、そうです。
支援の糸がたくさんある社会を
ー最後に、これから目指したい社会像があれば教えてください。
宮﨑:最近、自分らしく生きられる社会はどういうものかを考えているんですけど「支援の糸をたくさん垂らしていこう」と表現しています。
現状、ヤングケアラーについては学校の先生が発見しようという流れになっているのですが、ヤングケアラーの周りにいつもたくさんの糸があって、いつどれを引っ張っていいという状況をつくりたいと思っています。
その糸は学校の先生だけでなく、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、弁護士、支援団体などです。
そして、その糸の上ではみんなが繋がっていて、どれを引っ張っても支援の手が差し伸べられる、そういう社会がいいなって思っています。
なのでより多くの人にヤングケアラーの課題を知っていただいて、それぞれがどう支援していくのかを考え連携していく必要があるかなと思っています。
ーありがとうございました!
(聞き手 / 田中れいか)