みなさん、こんにちは!
田中れいかです。
今回は対象の地域が限られていますが、2023年4月からスタートした支援制度について紹介していきたいと思います。
今回、取り上げさせていただくのは東京都板橋区です。
板橋区では昨年夏に特別区として新たに児童相談所を設置し、一時保護所における意見表明等支援員(アドボケイト)の配置や施設等を巣立った子たちへの支援に積極的に取り組んでいる地域のひとつです。
社会的養護に関わる方にはぜひご覧いただき、支援制度創設の参考にしていただけたら嬉しいです!
板橋区の社会的養護の現状
まずは板橋区の現状を理解するために、基本情報をいくつかご紹介したいと思います。紹介する順番は ①区内の人口 ②児童虐待の現状 ③社会的養護の施設数 です。
①板橋区内の人口
区内の人口は令和2年6月1日時点で57万2842人、そのうち外国人は2万8123人。
世帯数、人口 | 左記の内外国人 | |
---|---|---|
世帯数 | 316,954世帯 | |
人口 | 572,842人 | 28,123人 |
男 | 280,898人 | 13,154人 |
女 | 291,944人 | 14,969人 |
14歳以下の人口は6万1763人となっています。
年齢 | 人口 | 構成比 |
---|---|---|
14歳以下 | 61,763 | 10.8% |
15~64歳 | 378,923 | 66.1% |
65歳以上 | 132,156 | 23.1% |
このあとの話にもつながりますが、できれば子どもや若者の人口分布をもう少し詳細に掲載していただけると、現状がわかるので助かるなと個人的に思っています。自治体によるので何ともいえませんが…
②児童虐待の現状
児童虐待の現状について触れる前に、板橋区の児童相談所についておさらいをしたいと思います。
ご存知のかたも多いと思いますが、板橋区は2022年7月に児童相談所機能と子ども家庭支援センター機能を併せ持つ「板橋区子ども家庭総合支援センター」を開設しました。
これは2016年(平成28年)の児童福祉法改正によって、特別区での児童相談所の開設が認められるようになったからです。
それまで板橋区は、東京都が管轄している北児童相談所が窓口となっており、北児童相談所の担当地域は北区・荒川区・板橋区となっていました。
東京都の児童相談所があるにも関わらず板橋区として開設に踏み込んだことについて、令和4年に開催された第3回定例会で区長は次のように答弁しています。
【質問】子ども家庭支援センター機能と児童相談所機能を合わせ、一つの大規模組織とした意義と具体的な効果は。
【回答】すべての子どもの健やかな成育のため、切れ目ない支援をめざし設置した。様々な専門職員が一つの施設に集まる効果を生かし、迅速できめ細やかな支援を行っている。
引用:区議会だより(令和4年第3回定例会)テキストページ2
「専門職員が一つの施設に集まる効果を生かす」という点についてですが、見学をした際にそれを実感することができました。広いスペースに里親担当、弁護士、ケースワーカーといった職員が一つのフロアに集結していて、開設した児童相談所を見学した当時はパーテーションの区切りがほとんどない職場環境でした。
「あの件どうですか〜」と少し声を出せば担当課を超えてやりとりできるような空間づくりに驚きました。
話しは外れましたが、児童福祉法改正に伴い新設した児童相談所。まだ開設から1年経っていないので、統計結果が公開されていません。
よって、みなさんを混乱させることになりますが、板橋区児童相談所の開設前の現状について紹介していきます。
まずは令和2年度の虐待通告件数についてです。
板橋区の子ども家庭支援センターでの通告件数は1,187件、東京都北児童相談所における板橋区の状況については1,074件となっています。
児童相談所の虐待相談対応件数は25,736件
よって板橋区の子ども家庭支援センターへの相談件数は東京都全体で4.9%を占めており、児童相談所の相談件数は東京都全体の4.2%を占めています。
引用:『みんなの力で防ごう児童虐待〜虐待相談のあらまし2022年版(令和4年)〜』虐待相談に関するデータ
子ども家庭支援センター(板橋区) | 北児童相談所(東京都) | |
---|---|---|
身体的虐待 | 302件 | 186件 |
性的虐待 | 16件 | 17件 |
ネグレクト | 263件 | 92件 |
心理的虐待 | 606件 | 693件 |
不明 | 16件 | |
非該当 | 70件 | |
合計 | 1,187件 | 1,074件 |
主たる虐待者は実父、実母が一番多くなっています。
子ども家庭支援センター(板橋区) | 北児童相談所(東京都) | |
---|---|---|
実父 | 421件 | 439件 |
義養父 | 25件 | 17件 |
母の内夫 | 6件 | |
実母 | 628件 | 469件 |
義養母 | 5件 | 3件 |
祖父母 | 9件 | |
その他 | 1件 | 13件 |
不明 | 98件 | 57件 |
非該当 | 70件 | |
合計 | 1,187件 | 1,074件 |
北児童相談所については、虐待通告1,074件の受理に対して146件一時保護がありました。そのうち虐待による一時保護件数は85件です。
②社会的養護の施設数
もうすでに情報量が多くなっていますが、板橋区内の社会的養護の施設数(乳児院、児童養護施設、自立援助ホーム、児童心理治療施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設)を見ていきます。
検索したところ、板橋区は児童養護施設が3ヶ所、母子生活支援施設が1ヶ所という結果でした。
乳児院 | ー |
児童養護施設 | 西台こども館 |
まつば園 | |
マハヤナ学園撫子園 | |
自立援助ホーム | ー |
児童心理治療施設 | ー |
児童自立支援施設 | ー |
母子生活支援施設 | 板橋区立母子生活支援施設 |
続いて、里親制度の状況については次のようになっています。
里親登録数 | 41家庭 | |
内訳 | 養育家庭 | 19 |
専門養育家庭 | 2 | |
養子縁組里親家庭 | 18 | |
親族里親 | 2 |
本当は委託数まで知りたかったのですが、これについては資料が見つかりませんでした…全国の里親登録数と委託数の割合を見ると約4割なので、10家庭ほど委託されているのかなと予想はできます。
またファミリーホームについて区議会議員さんに問い合わせしたところ、板橋区に確認をしてくださり、「区内にファミリーホームはない」ことがわかりました。
板橋区の取り組み
このような現状を踏まえて、板橋区では児童養護施設から大学等に進学する子達に対して「住まい応援プロジェクト」という取り組みをスタートしました。
①住まい応援プロジェクト(令和元年〜令和4年3月)
令和元年にスタートしたこのプロジェクトは、児童養護施設を出たあとに大学等に進学をしても学業を継続する困難さがあることから始まった取り組みです。
ちなみに、大学進学後の中退率については下記の記事で紹介していますが、進学して 1年3ヶ月が経過した時点で18 人(13.6%)が中退しているという調査結果があります。
児童養護施設に立ちはだかる大学進学の壁【10年間暮らした施設出身モデルが解説】区内3ヶ所の児童養護施設の職員さんからは「学費も生活費もすべて自分で賄う子が多く、大学等の卒業に至るまでは高いハードルがある」という声もあり、進学応援プロジェクトがスタートしました。
児童養護施設から高等教育へ進学する子たちの現状については、「児童養護施設に立ちはだかる大学進学の壁」で詳しく解説しているので興味がある人はご覧ください。
以前、このプロジェクトについて板橋区の担当者に説明を受けた際に、こんなグラフを目にした記憶があります。
進学した子たちが安定した学生生活を支えるためには住居の安定が必要。そのために家賃補助を行うという説明だった気がします …
そこで東京都板橋区では、令和元年8月に板橋区と区内の児童養護施設3ヶ所との間で協定を締結し、施設退所者のうち大学等に進学する子を対象にした住まい応援プロジェクトを開始しました。
これは、衣食住の土台となる家賃に対して、毎月補助を実施する取り組みです。
金額 | 家賃相当額の1/2(上限3万円) |
助成期間 | 学校修業まで(最長4年間) |
プロジェクト資金はクラウドファンディン型ふるさと納税で寄付を募り、令和元年〜令和2年の実績リーフレットによると、寄付総額1279万0794円。助成実績は217万8335円となっています。
〈寄付額〉令和元年12月31日時点:6,489,262円(256件)、令和2年1月1日〜12月31日時点:6,301,532円(191件)
〈助成額〉令和元年4月〜令和2年3月:732,335円(3名)、令和2年4月1日〜令和3年3月31日時点:1,446,000円(6名)
このプロジェクトにより助成を受けた子の人数は19名。
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | |
---|---|---|---|---|
助成人数 | 3人 | 6人 | 7人 | 3人 |
この19名という数字は継続して助成を受けた子も含むそうです。個人的には各施設の措置解除の人数や進学者の数も気になるところです。
実際に住まい応援プロジェクトの助成を受けた子の声はこちらをご覧ください。
支援を受けられなかったら、今よりも大変だったかも|板橋区児童養護施設卒園者住まい応援プロジェクト②ケアリーバー応援プロジェクト(令和5年4月〜)
続いて、2023年4月からスタートしたケアリーバー応援プロジェクトについて紹介します。この制度は住まい応援プロジェクトが拡充された事業です。
まずは気になる支援内容について紹介します。
支援の柱としては大きく3つあり、①経済的支援 ②居場所支援 ③相談支援 です。
一つ一つ解説していきます!
①経済的支援
経済的支援として受けられるのは次の3つです。
一つ目は施設等を巣立つときに受け取れる自立時支度金、二つ目は進学応援プロジェクトと同様の家賃補助、最後三つ目は医療費補助です。
自立時支度金 | 家賃補助 | 医療費補助 | |
---|---|---|---|
金額 | 20万円 | 家賃相当額の2分の1(ただし、月当たり3万円が上限) | 年間上限2万4千円(月額2千円相当) |
助成期間 | 措置解除時 | 6年間(※) | 措置解除後6年間 |
中でも家賃補助は東京都でも同様の支援がはじまり、東京都の助成期間は4年間。その後の2年間を板橋区で助成することとしています。
基本的には東京都の居住費支援を4年間利用したあとの2年間を助成。東京都の居住費支援を受けられない場合は板橋区の家賃補助を措置解除後最大6年間受けられる。
私がこの事業について説明を受けた際に驚いたのは新設された医療費補助についてです。
こちらはおそらく全国初の支援内容だと思います。
医療費補助の新設背景としては、『児童養護施設等への入所措置や里親委託等が解除された者の実態把握に関する全国調査(令和3年3月 三菱UFJ&コンサルティング)』、通称「ケアリーバー全国調査」の結果に基づいたものでした。
改めて調査結果を見てみると「経済的な理由から病院等に通わなかった経験がある」人が20.4%(608人/2,980人)。そのうち、66.6%の子がお金を理由に通えなかったことがわかりました。
また、施設の種類別で見てみると、経済的な理由から通えなかったという回答が一番多かったのは自立援助ホーム。中でも里親については11.4%と一番低い結果になりました。
これは興味深い結果だなと思います。
板橋区では医療費補助を新設することによって、後で紹介する ③相談支援 にも継続的につながりをもてるよう支援をしていくこととしています。
②居場所支援
続いて居場所支援についてです。
こちらはアフターケア団体が取り組んでいる居場所事業と同様の取り組みです。
板橋区の公共施設等を使って毎月1回気軽に集まれる場をつくります。
③相談支援
最後は相談支援についてです。こちらは施設等にいる間と巣立ったあとの支援です。
施設等にいる間は自立前施設等訪問事業と称し、希望する子がいた際に相談支援事業者のスタッフが訪問します。
また、施設等を出た後については、オンラインを活用した相談支援を行います。
具体的にどのようなツールを使うか分かりませんが、LINE・メール・電話といった方法が挙げられます。
また、施設を出たあとの相談支援については、経済的支援を受けるにあたって必要となる申請書類の作成を補助することとしています。
施設等を巣立った後、直接顔を会わせての相談は居場所支援の際に行うことを想定しているそうです。
対象者について
気になる対象者についてですが、基本的には板橋区内の児童養護施設を退所した子、里親家庭を巣立った子が利用できることになっています。
また、板橋区は2022年7月に板橋区児童相談所を開設したので、児童相談所が措置した児童で自立を前提に措置が解除される人も対象となっています。
これまでは進学者限定の支援でしたが、今回からは進学者も就職者も支援を受けられることになりました。
※板橋区内限定 | 経済的支援 | 居場所支援 | 相談支援 |
---|---|---|---|
児童養護施設 | ◯ | ◯ | ◯ |
里親家庭 | ◯ | ◯ | ◯ |
一時保護経験者 | ◯ | ◯ |
個人的に「板橋区の児童相談所で一時保護を受けて家庭に戻った子は対象になりますか?」と聞いたところ、居場所支援や相談支援は受けられるとのことでした!
まとめ
- 板橋区の人口は572,842人(そのうち外国人は28,123人)。そのうち14歳以下の人口は61,763人(全世代の10.8%)。
- 令和3年度の児童虐待通告件数は合計2,261件(板橋区の子ども家庭支援センター:1,187件、東京都北児童相談所(板橋区のみ):1,074件)
- 板橋区の社会的養護の現状は児童養護施設3ヶ所、母子生活支援施設1ヶ所、里親登録41家庭、ファミリーホーム0件。
- 令和元年8月に板橋区と区内の児童養護施設3ヶ所との間で協定を締結し、施設退所者のうち大学等に進学する子を対象にした家賃補助事業「住まい応援プロジェクト」を開始
- 令和5年4月にケアリーバー応援プロジェクトを開始。①経済的支援 ②居場所支援 ③相談支援を行い、区内の児童相談所にて一時保護を経験した子達も一部対象となる支援がある
- なかでも医療費補助はおそらく全国初の取り組み!
いかがでしたでしょうか?
「板橋区すごいな〜!」と、住まい応援プロジェクトを始めてくださった時から感じていたので、その期待感を裏切らない拡充を遂げているなというのが率直な感想です。
話は少し変わりますが、以前ある児童養護施設の施設長さんがこう言っていました。
社会的養護のなかでも「自立支援」は国も都道府県も重点施策として予算化してきている。これからこの流れはますます加速するだろう!
今回ご紹介したのは、いち早く社会的養護経験者の支援をスタートをした板橋区。「まだこれから」という地域の担当者さんもぜひ、ご参考にしていただけるとうれしいです!
次回は、私にとって思い入れのある「東京都世田谷区」の支援内容をご紹介したいと思います!