児童養護施設に立ちはだかる大学進学の壁【10年間暮らした施設出身モデルが解説】

突然ですが12.1%。
この数字、何の数字だと思いますか?

タイトルが「児童養護施設退所後の課題」となっているから、児童養護施設に関する数字だと思いましたか?

ごめんなさい!正解は、年収1,000万円以上世帯の割合です。
(厚労省「国民生活基礎調査の概況」平成30年)

ひっかけみたいなことしてごめんなさい。後で理由は述べます。

さて、それでは次に14.0%。
これは何の数字だと思いますか?

そうです。こちらが児童養護施設出身者の大学・短大進学率です。
(厚生労働省 家庭福祉課「社会的養護の現況に関する調査」令和元年5月1日現在)

今や大学全入時代言われ、2人に1人が大学・短大に行く時代にこの数字。いかがお感じでしょうか。単純比較はもちろんできませんが、皆さんにわかりやすく伝えるためにあえて比較対象として提示しました。

そう、わたしが言いたかったことは、児童養護施設で育ち大学・短大に進学することは、年収1000万円稼ぐことと同等に難しいという現実です。

今回の記事では、このような児童養護施設を退所した子どもたちに立ちはだかる進学の壁と、それでも高等教育の無償化など少しずつ社会がよくなっているということをお伝えさせていただきたいと思います。

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進学について

1)進学率

高校生の大学・短大進学率は51.9% であるのに対し、児童養護施設退所者に対象を絞ると進学率は14.0%まで落ち込みます。

※児童養護施設退所者は専門学校も含めた進学率

それに伴い高卒の就職率は全体で17.9%ですが、施設退所者では約62.9% と大きな差があります。

このように現在、児童養護施設出身の子どもたちは、日本という社会の構成員でありながら高等教育への公平な機会が保証されているとはいえず、その将来の選択肢を大きく制限されています。



また、日経新聞社マネー研究所(2017)によると、高卒か大卒かによる生涯賃金の差は4,600万円あると言われており、まさにこの低い進学率が貧困の連鎖を招くと危惧されているのです。

さて、それでは何故、施設出身の子どもたちは大学・短大への進学率が低いのでしょうか?

2)進学希望者の推移


まずは学年別の進学希望者数を見てみましょう。

厚生労働省の調査によると中学3年生以上の進学希望者は31.8%(「児童養護施設入所児童等調査の概要」(平成 30 年 2 月 1 日現在)厚生労働省子ども家庭局)となっており、実際の進学率より高いことがわかります。


養護:進学希望


養護:男女別(進学希望)

どうして希望者数の割合よりも進学率が低くなってしまうのでしょうか?

学年別の進学希望者数を見てみると興味深い事実がわかります。


中学3年生〜高校1年生までは「希望しない子」より「希望する子」が多いにもかかわらず、高校2年生になると「希望する子」より「希望しない子」が増えてしまっています。


なんで高校2年生が分岐点となるのか・・・

これは、10年間児童養護施設で暮らしたわたしの主観による推測になりますが、「自立」への意識が芽生えるのが、高校2年生だからだと思います。

高校1年生の頃は「施設をでる」ということよりも「高校生活に慣れる」ことを優先され、だいたい秋くらいから施設をでるための準備資金を貯めるためにアルバイトを始めます(早い子は夏くらいからバイトを始めます)。

高校1年生のわたし
高校1年生のわたし

職員から施設を出るまでに100万円貯めよう!って言われてるけど、全然「自立」っていう実感わかないな〜とりあえずアルバイトしてお金貯めてればいっか〜

実際に当時のわたしを知る職員さんは高校2年生のときのわたしを覚えてくれていました。

施設の先生
施設の先生

高校2年生のときは資料請求し始めてたかな〜

何となく将来を考え始め、行動するのが高校2年生。そしてそれと同時に、現実的な問題や「夢」と向き合うことにより、進路の変化が生じるのではないでしょうか。


3)進学のハードル

次に進学を諦めてしまう具体的な要因について考えていきたいと思います。

要因はいくつかあると思いますが代表的なものは「お金」と「学力」の課題だと思います。

お金のハードル

施設で暮らしている子どもたちは、基本的に18歳を迎えると児童養護施設を退所しなくてはなりません。

施設の先生
施設の先生

進学するには多くの学費が必要であり、奨学金制度もずいぶん増えましたがそれだけで賄うことは難しいのが現状です。借金を背負ってまで進学する気概のある子がいないのも実情です。

どうしても進学したいという強い思いがないと、卒業することも難しいのです。

進学した子の卒業・中退の現状については後述します。


施設を退所した子どもたちは学費や生活費を親に頼ることのできないため、【進学か就職か】となったとき、「すぐ、手元にお金が入る」という安心が手に入る「働く」という選択肢を選ぶ傾向が強いと感じています。

施設の先生
施設の先生

仕事さえしていれば「何とか生活はしていけるだろう」と考え、就職を後押しする職員も多いです。

学力のハードル

2つ目は学力のハードル。

全体的に児童養護施設の子どもたちの学力は低い傾向がある。学力面で自信をなくし、また、それが原因で 学校等での不適応が生じることもある。学業や進学への関心も低く、将来の希望職種も、高い学力が要求され る職業を希望する割合が少ない。 

(角野雅彦「社会的自立に向けた施設養護の現状及び課題の考察」2019)

もちろん、昨今は通塾に対する支援は拡充傾向にあり、学習意欲の高い子どもたちに関しては学力の向上が図られていると思います。

しかし、児童養護施設の子どもたちの中には学習意欲が少なく学習習慣のない子どもたちも多く存在します。

今後、進学率を向上させていくためには、学習意欲がなく塾に通う気もない子どもたちを、いかに進学へと意識させるかも重要ではないでしょうか。

MEMO
同じ社会的養護のカテゴリに属する里親家庭の大学進学率は27.2%。施設出身者の進学率14.0%と比較して高い進学率となっています。

4)進学しても”卒業できるか”が課題

2018年11月にNPO 法人ブリッジフォースマイルの調査チームが公表した『全国児童養護施設調査 2018 社会的自立と支援に関する調査』によると、

児童養護施設を退所後に進学した625人のうち中退の総数は103名(16.5%)、進学して 1 年 3 ヵ月が経過した時点で18 人(13.6%)が中退しています。

20142015201620172018
就学中92554102147
卒業59432980
中退322626181
不明・その他1814743
進学者 計118108116132151

※2014 年 3 月から 2018 年 3 月までの間に施設を退所し進学した人が、2018 年6 月現在どのような状況にあるかを示したものです。

文部科学省の 2014 年の発表4によると、2012 年の 1 年間に大学・短期大学・高等専門学校を中退した学生は 2.7%でした。中退を把握する期間が異なるため単純な比較はできませんが、施設退所者の中退率は全学生のそれと比較して大幅に高いことがわかります。

NPO 法人ブリッジフォースマイル 調査チーム
『全国児童養護施設調査 2018 社会的自立と支援に関する調査』2018年11月

なぜ、このような結果になるのか・・・

母数(n=118)は少ないですが、東京都の資料(平成29年)をみると、学業をつづける上で大変だった要因(主な2つまで)が浮き彫りになっています。

  1. アルバイト等との両立(94.1%)
  2. 学費等の教育費の負担 / 生活費・交際費等の負担(76.3%)
  3. 学生間・教師等との人間関係(36.4%)


そして上述の「学校をつづける上で大変だったこと」の1位になっているアルバイトについて、文部科学省給付型奨学金制度検討チームは、働きながら学業を両立することの厳しさを示唆するデータを公開しています。


文部科学省 給付型奨学金制度検討チームのまとめた「給付型奨学金制度の設計について」(平成28年度)によると、年収200万円未満世帯の「私立の下宿大学生」では、月平均78,000円の仕送り等の家庭からの支援があるそうです。

一方で、児童養護施設退所者は、家族に頼ることができないので、単純にこの仕送り78,000円は発生せず、他の年収200万円未満世帯の大学生よりも月78,000円多くバイトをしなくてはいけないことになります

東京の最低賃金が1,031円(令和元年10月1日現在)だから、周りの学生よりも75時間多く働かないといけないのか…


児童養護施設出身者にとって、進学そのものが狭き門であるにも関わらず、進学した後のバイト問題は大きな課題でした。

しかし、この課題に関しては今年度より始まった「高等教育の無償化」のおかげで大きく改善されることに繋がると期待しています。

広がりを見せる支援の輪

ここまで、厳しい現状ばかりお話ししてきましたが、冒頭でも記載した通り、少しずつではありますが、この児童養護施設退所を取り巻く環境は改善の傾向にあります。

今回は、いくつかの事例と簡単な概要等をご紹介させていただきたいと思います。

1)国の取り組み

高等教育の無償化(令和2年4月〜)

住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生を対象に
①授業料・入学金を免除又は減免
②給付方奨学金の対象者・支給額を拡充

2)自治体独自の取り組み

せたがや若者フェアスタート応援(平成28年4月〜)

児童養護施設等を巣立った若者が、学業と生活を両立しながら社会的自立に向けて安定した生活を継続することは困難な実態があります。区では、すべての若者が同じスタートラインに立ち、未来を切り開く ためのしくみとして、住宅や居場所の支援に加え奨学金を給付します。(世田谷区HPより)

住まい応援プロジェクト(平成31年4月〜)

大学などに在学する児童養護施設卒園者の住まいにかかる費用を助成することを通じ、子どもたちの修学・自立を支援します。(板橋区HPより)

さいたま市フェアスタート応援事業(平成30年4月〜)

施設入所や里親委託となっている高校生児童の、学習 にかかる経費や高校生活にかかる経費を補助します。(さいたま市子ども未来局 平成31年度 局運営方針(案) )

※さいたま市は概要サイトがありませんでした。

まとめ

  • 児童養護施設退所児の進学率は14.0%、就職率は51.9%
  • 高校1年生までは「進学希望する」が多いが、高校2年から「希望しない」が逆転
  • 進学には「お金のハードル」と「学力のハードル」がある
  • 進学後も高い中退率(16.5%)
  • 中退の主な理由は、学業とバイトとの両立が困難であること
  • 一方で国や自治体では支援の取り組みが拡充

いかがでしたか?

わたし自身が世田谷区の制度によって救われた身であるがゆえに感じることかもしれませんが、社会は確実に良い方向に進んではいると実感しています。

前回の東京オリンピックが開催された56年前。大学・短大への進学率は19.9%でした。しかし現在では62.9%と大きく改善されています。

56年間も改善されないといくらなんでも困りますが、いつかは児童養護施設退所者も一般家庭の方たちと変わらない進学率となる「フェアスタート社会」が実現されることをわたしは確信しています。

そして、その日が一日でも早く訪れることを願って、わたしはこれからも情報発信をしていきたいと思います!

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