親元を離れて暮らす子どもたちへ必要とされている「ライフストーリーワーク」とは?

突然ですが、みなさんはライフストーリーワークって知っていますか?

単語を直訳すると「人生」「物語」「作業」となるので、わたしははじめ「人生を物語のようにつくるのかな?」という印象を受けました。

しかし、そんな「ライフストーリーワーク」ですが、現在親元を離れて暮らす子どもたちへの必要性が説かれ、その普及が少しずつ始まっていっています。

今回はその「ライフストーリーワーク」についてどのようなやり方でどのような効果が望めるのかを見ていきたいと思います!

ライフストーリーワークとは?

ライフストーリーワークは生い立ちを整理するためのツールと思われがちですが、実はそうではないんです。

長年、ライフストーリーワークの研究をされている才村眞理さんは、ライフフストーリーワークを次のように説明しています。

子どもの日々の生活やさまざまな思いに光を当て、自分は自分であっていいということを確かめること、自分の生い立ちや家族との関係を整理し、過去-現在-未来をつなぎ、前向きに生きていけるよう支援する取組みが、ライフストーリーワークである

ライフストーリーワークにおける就職前の事前学習の意義 才村眞理
帝塚山大学教育学部紀要 第 1 号 66 ~ 74(2019)論文

詳しくはやり方で触れますが、一回に限らず特定の人と何回もライフストーリーワークをすることでじぶんがどんな人間なのかを知り、本人の希望にそって過去を一緒に整理していく、その過程も含めてライフストーリーワークというみたいです。

個人的に「過去-現在-未来をつなぎ、前向きに生きていけるように支援する」というところに惹かれました

歴史

ここからは歴史をみていきます。

ライフストーリーワークはイギリスが発祥といわれています。

『ライフストーリーワーク入門〜社会的養護への導入・展開がわかる実践ガイド〜』によると、

ライフストーリーワークは、もともとは家庭を離れて暮らす子どもの措置にかかわるソーシャルワークの伝統的な実践のなかから生まれたものです。

『ライフストーリーワーク入門〜社会的養護への導入・展開がわかる実践ガイド〜』明石書店

とされています。

実際にその歴史をたどると、親元を離れて暮らす子どもが里親家庭へ委託されるときや、養子縁組をされるときに子どもの成長を記した冊子を手渡したことや、子ども自身がじぶんのことを語る手段として、※ライフストーリーブックが活用されるようになったとされています。

※ライフストーリーブックとは

生い立ちの整理をする際に使う記入式ノートあるいは冊子、アルバムのこと。

1950年代には、里親委託や養子縁組の準備として、ソーシャルワーカーが子どもの成長記録を記したライフブックという冊子を手渡すという試みがすでに欧米でなされていたようです。

1970年代以降になると、ライフブックは、歴史を記すだけでなく、子どもたちの混乱を解消し、子ども自身が自分のを語る手段として活用されるようになり、次第にライフストーリーブックと呼ばれるようになっていきます。

『ライフストーリーワーク入門〜社会的養護への導入・展開がわかる実践ガイド〜』明石書店
第1章ライフストーリーワークとは 
第1節ライフストーリーワークの歴史

イギリスでライフストーリーブックを子どもたちに渡したことが、ライフストーリーワークのはじまりなんですね!

社会的養護とライフストーリーワークの関係

日本ではライフストーリーワークというと「社会的養護の子達への」「生まれた家族から離れて暮らす子どもたちのための」と言った前置きがあり、”社会的養護の子たちだけ”に必要というような印象を受けます。

ただ、ライフストーリーワークを研究している才村眞理さんにお話しを聞いたところ、社会的養護のもとで育った子達だけでなく離婚をした親子ステップファミリーになった親子にも必要だということを教えてもらいました。

ただなぜ、社会的養護の子達への必要性が強く聞こえてくるのかというと、日本では社会的養護関係の施設(児童養護施設・児童自立支援施設・児童心理治療施設)の運営指針という通知で「子どもの発達段階に応じて子ども自身の出生や生い立ち、家族状況について適切に知らせること」が共通して記されています

ちなみに自立援助ホームでは、言葉こそ違うのですが「利用者の生い立ちの整理は、重要な課題」と記されています。

そして直接、ライフストーリーワークの必要性が記されているのは、里親及びファミリーホームの養育指針です。

ライフストーリーワークなど子どもたちの生きてきた歴史や子どもたちに寄せられて来た思いを綴り、写真や数値、できるようになったこと、かかわってくれた人・物などとともに記録としてまとめることも、子どもが、自らを「他者と違う固有の存在」「尊厳をもった大切な自分」であると気づき、自分を大切にし誇りをもって成長するために有効である。

里親及びファミリーホーム養育指針
厚生労働省雇用均等・ 児童家庭局長通(平成24年3月29日)
第II部各論 1.養育・支援(6)子どもの自己形成

こうしたことから、ライフストーリーワークは社会的養護の子たちだけに限らず、親子関係に何かしらの課題を抱えている子どもたちにも必要な取り組みであることがわかります。

日本でどれくらい普及しているの?

それでは日本ではどれくらい、ライフストーリーワークが取り組まれているのでしょうか?

現状、統一されたライフストーリーワークのやり方があるわけではないので、生い立ちの整理を実施している施設の状況を参考資料として見ていきます。

『社会的養護関係施設における親子関係再構築支援の取組に関する調査 報告書(平成28年3月 みずほ情報総研株式会社)』によると、児童養護施設では親子交流がない子に対して、生い立ちの整理を実施していることがわかります。

児童養護施設乳児院児童心理治療施設児童自立支援施設
家庭復帰できる85施設 / 336施設(25.3%)5施設 / 91施設(5.5%)7施設 / 28施設(25%)18施設 / 45施設(40%)
一定の距離をとって親子交流を続ける117施設 / 336施設(34.8%)10施設 / 89施設(11.2%)8施設 / 27施設(29.6%)14施設 / 39施設(35.9%)
親子交流が望ましくない、または、親子の交 流がない131施設 / 331施設(39.6%)5施設 / 91施設(5.5%)10施設 / 26施設(38.5%)11施設 / 37施設(29.7%)
「ライフストーリーワーク(生い立ちの整理)」を実施している施設数の割合p.17 を参考にたすけあい作成
『社会的養護関係施設における親子関係再構築支援の取組に関する調査 報告書(平成28年3月 みずほ情報総研株式会社)』

このように他の施設も一覧にしてみると、親子関係がどのような状況であれ、生い立ちの整理が実施されているのがわかります。

ライフストーリーワークのやり方

ライフストーリーワークの歴史や日本での取り組みの状況についてわかったところで、どのようなやり方で実施されているのかを見ていきます。

基本的に社会的養護におけるライフストーリーワークは、子どもと養育者(施設や児童相談所の職員、里親支援期間や里親自身など)と一対一で行われることとされています。

やり方としては下から順に、日常型・セッション型・治療型の3つの段階があり、

施設職員さんや里親さんは参考になると思うのですが、ライフストーリーワーク実施の段階でいうとで、このような関わりがあげられます。

書籍によって実施方法の呼び方は変わっているのですが、大きく分けると「日常型」「セッション型」「治療型」の3つになります

今回はこの3つの段階に注目し、その方法をみていきます。

①日常型ライフストーリーワーク

日常型ライフストーリーワークは、日頃の生活をみている職員さんや里親さんが該当します。

日常型が土台となっている理由としては、ライフストーリーワークを安全に実施するためには、日常生活における子どもとの信頼関係が最も重要とされているからです。

たしかに過去のことって、誰にでも言えることではないですよね。

「この人なら家族のことを話してもいい」と思える関係性がないと、生い立ちの整理はできないから、日常生活を通じた信頼関係の構築が重要なんですね!

日常型ライフストーリーワークにおける具体的なシーンは次の通りです。

子ども
子ども

(施設内で面会している子をみて)なんでわたしは面会がないの?

子ども
子ども

(一時帰宅している子をみて)なんで僕は家に帰れないの?

こういった場面が、あるとき訪れると思います。

この時に、その子どもの何気ない一言に対して、

  • 家族の情報がほしいのか
  • 家族の話をしたいのか
  • 家族に会いたいのか
  • 家族は元気にしているのか

など、その子が何を求めているのか判断する必要があります。

家族の話が頻繁に出るようだったら、子どもが家族の情報を必要としていると判断するかもしないですし、その場限りの話だと判断したら「そうだね〜どうしているんだろうね」などと返答すると思います。

そして日常型ライフストーリーワークにおいて大切なこととして、『今から学ぼうライフストーリーワーク』では

支援者が、「今、伝えねばならないと思う」事柄ではなく、子どもが日々の生活で発するサインに応えることから始め、ニーズに応じて徐々にセッション型のLSWに移行していくことが、子どもにとっての負担とリスクを可能な限り軽減することになるだろう。

今から学ぼうライフストーリーワーク
施設や里親宅で暮らす子どもたちと行う実践マニュアル
才村眞理&大阪ライフストーリー研究会

とし、

いかに優れた支援であっても、それを受け止めるだけの土台がなければ、十分な結果が望めないばかりか、リスクが伴うことを忘れてはならない。

今から学ぼうライフストーリーワーク
施設や里親宅で暮らす子どもたちと行う実践マニュアル
才村眞理&大阪ライフストーリー研究会

ことをあげています。

先ほど紹介した図のように、過去の話に触れるだけなのか、それともライフストーリーワークを視野に入れて子どもと関わるのかが次の段階へ進む分かれ道になってくるんですね。

個人的に日常型については何気なくやっている職員さん・里親さんもいるのかな〜と思いました

②セッション型ライフストーリーワーク

つづいて、セッション型ライフストーリーワークについてです。

セッション型とは日常場面とは異なる特別な時間・特別な場所を設けて行うことが想定されています。

基本的には特定の実施者と一対一で行います。

今回は詳しく触れませんが、実施前には入念な準備が必要となるのがセッション型のポイントです。

ワーク1回の時間はおおむね50~60分とされており、子どもが会いたい人に会いに行くことや、生まれた場所(病院・乳児院等)へ行く時間も含まれています。

回数は1回2回でおしまいではなく、最低でも7.8回、基本的には月1.2回など定期的に実施していくことが望ましいとされています。

そして大切なのは、子どものニーズに応じて中断・再開できる態勢を想定しておくことです。

実施が必要なタイミングとして下記の3つをあげましたが、子どもの発達段階に応じて10歳・15歳、8歳〜12歳という見解がありました。

実施が想定されるタイミング
・家族のことを何度も聞いてきたとき
・思春期
・措置解除前

③治療型ライフストーリーワーク

最後は治療型ライフストーリーワークについてです。

『ライフストーリーワーク入門〜社会的養護への導入・展開がわかる実践ガイド〜』では「ライフストーリーセラピー」と呼ばれていますが、治療型ライフストーリーワークについて次のように説明しています。

生い立ちを振り返る過程には痛ましい内容や過酷なトラウマ体験が含まれていることもあります。こうした事実を受け止め、消化していくためには、必要に応じて、護りのある時間と空間を設け、ライフストーリーセラピーを実施することも求められます。

『ライフストーリーワーク入門〜社会的養護への導入・展開がわかる実践ガイド〜』明石書店
第1章ライフストーリーワークとは 
第3節ライフストーリーワークの3つの形式 p.21

治療型ライフストーリーワークは分離体験・喪失体験・被虐待体験からの回復など、より専門的な内容になるんだね!

重要!真実告知との違い

ただし、ここで注意しないといけないのは、ライフストーリーワークは真実告知をメインにするものではないということです。

実際、里親家庭においてはライフストーリーワークは真実告知が含まれた内容となることが想定されるので、この2つをイコールにしてしまっている人もいるのかな〜と思います(わたしもそうでしたが)。

これを間違ってしまうと、家族のことを不必要に伝えすぎたり、アフターフォローができずにその子との関係性が切れてしまうということもあるので、大変重要なポイントです。

あくまでライフストーリーワークは生い立ちを整理するためのプロセスなので、実践を通じて実施者との信頼関係を構築し、安心・安全の場で家族のことを整理するためのツールにすぎないのです。

再度、ライフストーリーワークとは?を見てみましょう。

子どもの日々の生活やさまざまな思いに光を当て、自分は自分であっていいということを確かめること、自分の生い立ちや家族との関係を整理し、過去-現在-未来をつなぎ、前向きに生きていけるよう支援する取組みが、ライフストーリーワークである

ライフストーリーワークにおける就職前の事前学習の意義 才村眞理
帝塚山大学教育学部紀要 第 1 号 66 ~ 74(2019)論文

ワーク例

それでは実際にどのようなワークをやっているのか…ワーク例をいくつか見ていきたいと思います!

ライフストーリーワークの必要性と効果

わたしと同じように、気になった人がいるかと思います。

ライフストーリーワークの必要性について『今から学ぼうライフストーリーワーク』では以下のように説明しています。

なぜ自分は生みの親と暮らすのではなく、ここで生活してるのか、子どもたちが自分の抱える「事実」とどのように折り合いをつけていくのか、子どもたち1人ひとりがどのような生活を望み、どんな大人になりたいのか、「未来」に向けた取り組みが今、必要とされている。

今から学ぼうライフストーリーワーク
施設や里親宅で暮らす子どもたちと行う実践マニュアル
才村眞理&大阪ライフストーリー研究会

しかし、必要性までは万人に理解できる形で提示されていますが、一方で社会的養護におけるライフストーリーワークの効果については定量的な調査・報告している資料が見つかりませんでした。

この背景にはそもそも日本ではライフストーリーワークの定義が研究者各々によることと、ワークの手法が統一されていないことがあげられます。

ただし、この「手法(技法)」について、統一化される危険性があるとも言われています。

生の根幹にあたる真摯な対話を、マニュアルに沿ったルーティンワークへと堕ちてしまう危険性にも配慮しなくてはならない。また、それぞれの技法は、誰が使用しても同じ効果をもたらすものではなく、技法の背景や必然性の理解、セラピスト自身のありようや相手との関係性によって変化する。

児童養護施設におけるライフストーリーワーク
ー子どもの歴史を繋ぎ、自己物語を紡いでいくための援助技法ー
楢 原 真 也

ここからは個人的な見解になりますが、ライフストーリーワークは2年前に初めて耳にし、わたしが児童養護施設で生活していた時にやりたかったと思える取り組みとして注目してきました。

例えば、子どもたちが突発的に「親と暮らしたい!」という思いを職員さんにぶつけたとしても、虐待などプライバシーに大きく関わる極めてセンシティブな問題であるため、なかなか正面から受け止めるのは難しく、「家に帰るのは難しいよね」「家に帰れたらいいよね」といった曖昧な回答することしかできないという場合があり、このような場面においてライフストーリーワークが有効な手段ではないかと感じたためです。

ただ、実施している施設について話を聞いてみると、導入に積極的な施設とそうでない施設があるようで、広く入所児童に伝わっていくにはまだまだ時間がかかると思いました。

支援の広がり

上記のように普及方法に課題がある一方で、児童養護施設や里親家庭を巣立った子達のアフターケアの一つとして、ライフストーリーワークを取り入れているNPO法人があります

そこでは、生い立ちの整理を希望する子がNPO法人の団体職員さんと一対一で、生い立ちの整理をしていくというものです。

その団体の職員さんはライフストーリーワークの研修を受けて、希望する子にセッション型ライフストーリーワークを実施しているそうです。

成人してから心にゆとりができたとき、家族のことが気になって自分一人でルーツ探しをしている子も多いから、この取り組みは嬉しいですね!

まとめ

それでは今回の記事のまとめです!

  • ライフストーリーワークとは自分の生い立ちや家族との関係を整理し、過去-現在-未来をつなぎ、前向きに生きていけるよう支援する取組みのこと
  • ワークそのものをではなく、ワークに取り組むプロセス(作業・過程)を重要視している
  • 社会的養護におけるライフストーリーワークは、子どもと養育者(施設や児童相談所の職員、里親支援期間や里親自身など)と一対一で行われる
  • 実施方法は ①日常型 ②セッション型 ③治療型 の3つある
  • ライフストーリーワークを安全に実施するためには、日常生活における子どもとの信頼関係が最も重要とされているため日常型のかかわりが大切になる
  • 日常型のニーズに応じてセッション型へ移行するか会議を行い、実施する
  • セッション型ライフストーリーワークは一回おおむね50~60分、定期的に実施する
  • 子どものニーズに応じて、中断・再開できることも想定しておく
  • 治療型ライフストーリーワークはトラウマや喪失体験など、より専門的な状況の整理になる
  • ライフストーリーワークの導入施設にばらつきがあるが、アフターケアの一環としてセッション型ライフストーリーワークを行う団体も出てきている

いかがでしたでしょうか?

一人で辛い過去・受け止めにくい過去を知るのではなく、信頼関係のある職員さん(里親さん)と一緒に過去を歩いていき、「過去-現在-未来」をつなげていくプロセスがライスフトーリーワークなんだと知って、必要としている子はたくさんいるんだろうなと感じました。

個人的に、気になる分野ということで今後も注目していきたいと思います!


イベント開催します!

■こんな人におすすめです!

・過去-現在-未来を繋ぎ、自己理解を深めるライフストーリーワークについて学んでみたい
・じぶんの過去や、家族との関係について、改めて考えてみたい
・じぶんが何を、誰を大切にしていきたいのか、考えてみたい

■イベント概要

日程:8月14日(土)10:00~12:00
配信場所:zoom
※ZOOM URLは申込後ご案内いたします。
※当日参加ができなくても「アーカイブ視聴」ができるよう準備しました!

【第一部】

10:00~11:00
才村氏と田中れいかのトークセッション

・ライフストーリーワークとは?
・具体的にどんなワークをやるの?
・どのような効果が期待できるの?

※当日の進行により質問事項が変更する場合がございます

【第二部】

11:00~12:00
ライフストーリーワークを活用したミニコーチング

・小さなころ大事にしていたものは?
・家族についてこうなったらいいなと思っていることは?
・わたしにとって大切なことは何?

※当日の進行により内容が変更する場合がございます

詳細はこちら

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