みなさん、こんにちは!田中れいかです。
今回はたすけあいにとって、初めての書籍レビューです。
これまで書籍の紹介は、出版社の許可を得ないとできないものとして触れられずにいたのですが、今回は許可をいただき紹介できることになりました!
しかも、今日ご紹介するのは『My Voice,My Life 届け!社会的養護当事者の語り』ということで、以前の動画で紹介した『月刊福祉』で連載しているコーナーの書籍化です。
詳しい話は本編でしたいと思いますが、わたし自身、これまで読んだ「当事者の語り」の中でトップ3に入る内容の書籍でした。
いま社会的養護のもとで働く職員さんも、里親さんも、社会的養護を経験して活動している人も、多くの人に気づきとヒントがある本だと感じました。
今回はその見どころをご紹介できたらと思います。
書籍『My Voice My Life 届け!社会的養護当事者の語り』とは
『My Voice,My Life』とは、以前たすけあいの記事で紹介した『月刊福祉』に連載されている「My Voice,My Life 社会的養護当事者の語り」が書籍化したものです。
この連載は2015年(平成27年)5月号から開始し、現在も続いています。
2022(令和4)年9月号までに、85人の子ども(10代〜30代の社会的養護経験者)にインタビューし、この本では20人の語りが紹介されています。
書籍によると、企画の趣旨についてこのように書かれています。
日本が子どもの権利条約に批准して、昨年度で20年が経過した。本企画は、次の10年に向けて、改めて条約の理念に立ち返り、社会的養護のもとで暮らす子どもたちの声をありのままに受け止め、今後のあり方を考えようとするものである。
「子どものことは大人がよくわかっている」「大人が子どもを守ってあげる」という視点ではなく、インタビューを通じて、子ども自身が自分のライフ(生活、人生、生命)をどのようにとらえているのか、福祉サービスを含む大人社会をどのような目で見ているのか、を伝えることができたら幸いである。
『My Voice,My Life 届け!社会的養護当事者の語り』
p.3 はじめに 山縣 文治
今でこそ「子どもの声を聴く」という議論が活発になりましたが、子どもの権利条約という世界的な視点に立って、この企画が進んだんですね。
以前も動画でお伝えしましたが、連載元の『月刊福祉』は残念ながら本屋さんに置いておらず、手にすることが難しい人もいたかと思うのですが、今回は単行本となってこれまでより少しだけ気軽に買えるようになりました。
子ども時代を社会的養護のもとで過ごした子たちが、どう自分のルーツに向き合い、受け止め、今を生きているのか。
次に書籍の内容について紹介していきます。
目次
まずは書籍の目次を紹介します!
- 第1章 消えた記憶 私の記憶が消えた理由
- 第2章 施設と家庭 子どもにとって施設とは?家庭とは?
- 第3章 親と私 親との関係と私の中の変化
- 第4章 出会い 人生を変えた人やできごと
- 第5章 新しい世界へ 未来の私を語る
- 第6章 座談会 彼と彼女たちの今
章ごとのVoiceタイトルも印象的なので紹介します。
- 自分の生い立ちの整理をしてなくて、自分のことを全然知らなかった
- 更生保護施設で暴力事件を起こした時に与えられたチャンス
- 気づかないってことが、どんなにやばいことになるかわかってほしい
- つらい感情って忘れようとするんですね
- 今の自分が形成されたのはここ 自分の田舎っていうか、マイホーム
- 施設では毎日学校に行けるのがうれしかった
- 子どもが気持ちを言いやすい環境をつくったほうがいい
- 施設のことは職員込みでリスペクトしています
- 家族3人でのお出かけが好きで 毎年、登山に行きました
- 僕が傷つけてしまったらこの人はだめになる
- 両親に理解してもらおうと思うのはやめました
- 母は唯一の心の拠り所 安らぎを提供してくれる存在
- 「親権よりも子どもの人権が優先される」との言葉で目覚める
- 本当に大事な、ずっと残る、ずっともっておきたいものができた
- 熱い学校教員との出会い、その頃から記憶がはっきりしてきた
- 子どもが親の次に頼れるのは先生 自分だからこそできることを子どもに
- 周りの高校生と同じスタンスに立てたことに本当に感謝しています
- 最終的にはあなたが決めることだよ
- 生活に困難を抱える人たちに関わることで恩返しをしたい
- 表現を続けたい! 夢は自分のお店をもつこと
書籍の特徴3つ
書籍を読んでみて、本書の特徴は3つあります。
- 社会的養護の環境を網羅したエピソードに触れられる
- 親との折り合いの過程を知ることができる
- 支援やサービスの改善に向けたヒントがある
一つ一つみていきます。
特徴①社会的養護の環境を網羅したエピソードに触れられる
おさらいにはなりますが、社会的養護は「施設養護」と「家庭養護」に大きく2つに分けることができます。
本書では、乳児院・児童養護施設・自立援助ホーム・児童自立支援施設・児童心理治療施設・里親・養子縁組を経験した子たちの声が紹介されています。
よって、社会的養護と呼ばれる環境のすべてを網羅するエピソードが掲載されているのが特徴です。
また、1名だけですが、少年鑑別所・少年院・更生保護施設で生活していた子のお話もあり、社会的養護を広く捉えることができるのも特徴の一つです。
特徴②親との折り合いの過程を知ることができる
社会的養護のもとで暮らすということは、親と暮らすことが難しい事情があり、「家族・親」というのは、措置されている間も、措置が解除された後も本人にとって大きなテーマになってきます。
わたし個人の経験でいうと、施設にいるよりも、出た後のほうが何かと考える機会が増えたような気がします。
第3章「親と私」の解説ページでは、親との折り合いをつけることについて、一人一人の経験から4パターンに分けられるとしています。
第1は、完全に距離をおいた関係となっているものである。(略)第2は、葛藤のなかでも親子関係を維持しているパターンである。(略)第3は、親が虐待するのは自分に責任があると感じているパターンである。(略)最後は、里親や養親家庭で暮らす子どものパターンである。
p.117 第3章 親と私
《インタビュアーより》◆親との折り合いをつける4つのパターン
親が「子どものお金を管理する」という名目で、その全てを奪ってしまうケース、親を「お母さんではなく、産んだ人」と割り切っているケース、親は信用していないけど里親さんは信頼できたケース…
解説では折り合いをつける4パターンと分類されていますが、その過程に至るまでの経験や想いは千差万別です。
その過程を教えてくれるのは「本書以外ないのではないか」と思うくらい、話してくれた子が自分の経験を受け入れる瞬間や、事実を知る瞬間、親との関係を整理する瞬間に立ち会うことができます。
この本を読み終わる頃には、わたしを除く19人の子たち全員に会いたくなると思います(笑)
つづいて、特徴の3つ目です。
特徴③支援やサービスの改善に向けたヒントがある
ここについては、行政関係者・施設職員・里親さんそれぞれに最低1つ以上は気づきのある内容が随所に書かれています。
例をあげるとこんな内容になります。
(アイコンはイメージです)
持ち物に全部名前が書いてあるのは嫌でしたね。高校生になっても、お弁当箱やお箸に書かれていましたから。(P.20)
たまに前の里子の名前で呼ばれることがあって。間違えられるのもつらかった。(p.72)
学校で、虐待があったら相談してねっていうカードをもらいますよね?私は学校でもらったものはすべて提出させられていたから、あんなの論外でした。(p.167)
日常生活のことから、学校で配布する相談カードまで、経験した子たちの声にいくつものヒントが含まれています。
ぜひこの点も意識して読み進めると、明日からできるアクションが見つかると思います!
こんな人におすすめ!
特におすすめなのは社会的養護の職員歴が1年目〜3年目の職員さん、あるいは支援団体のスタッフさんだと思います。
いま目の前でかかわっている子と全く同じケースはないですが、想像力を養う点で、仕事に活きる一冊になるかなと思います。
10代〜30代の社会的養護経験者のエピソードが盛り込まれているので、ケアを離れたばかりの子たちを知るヒントにもなります。
よって、本書を読み進めることで、アフターケアという視点が自然と身に付くような気がします。
ぜひ、1拠点に1冊あるといいのかなと個人的に思います。
どこで買えるの?
本屋さんで取り寄せ、または全国社会福祉協議会のサイトから購入ができます。
紙の本は1冊1,870円、電子書籍は1,683円でAmazonショッピングサイトから購入することができます。
紙の本をAmazonで気軽に買えないのが残念ポイントです
田中れいか的ポイント!当事者参画と生い立ちを知る権利の保障
最後はわたし個人の注目ポイントをご紹介したいなと思います。
それは「当事者参画」と「生い立ちを知る権利の保障」です。
当事者参画
まずは当事者参画についてです。
この本のインタビューは、そのほとんどが初対面だそうです。
にもかかわらず、社会的養護のもとで暮らす背景や現在の親子関係について、詳細に答えられています。
わたし自身、もう少し慎重に当事者の声を聴くことが大事なのではないかと考えていましたが、初対面でこんなに話してもらえるのか…と驚きました。
声の聴き方や段階というのは個人的に気になっているところですが、これから加速する「当事者参画」のヒントになりました。
生い立ちを知る権利の保障
つづいて、生い立ちを知る権利の保障についてです。
全20名のVoiceを読み終えて感じたのは、インタビューに答えることも、話したことが可視化されることも、それを見たつながりのある人からフィードバックをもらうことも、その全ての過程を通して「生い立ちの整理」になっているのではないかということです。
第1章「消えた記憶」の解説では「出自を知る権利」を保障することについて、子どもの権利条約を挙げています。
子どもの権利条約では、第7条において、子どもはできる限りその父母を知る権利を有すること、第8条において、家族関係を含むその身元関係事項について不法に干渉されることなく保持する権利について定められている。
p.49 第1章 消えた記憶
《インタビュアーより》◆「出自を知る権利」を保障する責任が社会にはある
子どもの権利条約については不勉強ですが、世界的に出自を知る権利を大切にしようというのは共通認識としてあるということですね。
本書の中では、「ケース記録を読ませてくれ」と言ったら教えてもらえなかった子、当事者から支援者となった子の経験として「生い立ちがうまく浄化されていない子どもはしんどい」といった声が紹介されています。
日本では生い立ちを知るための「児童記録票」の開示が満25歳までであったり、記録が手に入りにくい構造になっています。
当事者の声を聴く社会を築くためにも、意見が形成できるだけの情報を伝えることについても、今後議論が進むといいなと思いました。
まとめ
ということで、記事のまとめです。
- 『My Voice,My Life』とは、『月刊福祉』の連載が書籍化したもの
- 書籍では10代〜30代の社会的養護経験者20人の語りが紹介
- 特徴は①社会的養護の環境を網羅したエピソードに触れられる ②親との折り合いの過程を知ることができる ③支援やサービスの改善に向けたヒントがある
- 特におすすめなのは社会的養護の職員歴が1年目〜3年目の職員さん、あるいは支援団体スタッフさん
- ぜひ1拠点に1冊置いてみてください!
いかがでしたでしょうか?
一人一人のエピソードは6ページほどなので、20名分一気に読むことができます。
一つ一つのエピソードを簡単に読み進めることはできませんが、大切な情報がギュッと1冊にまとまっているのは、日々忙しく働いている職員さんたちにとっても嬉しい1冊なのかなと感じました。
わたしも活動を通して、時折読み返し、みんなからヒントを得られたらと思いました。
ぜひ気になったかたは注文してみてください!