今回の記事は児童養護施設で働く職員さんのこんな想いから始まりました。
施設で暮らす子どものうち、「およそ1/3がなんらかの障がいがある」という現状があるのですが、福祉サービスの制度設計上、障がいに関する福祉サービスを受けたいのに受けられない子が出てしまうという課題があるんです。
まずは一人でも多くの人にこの現状を知っていただき、一緒に考えていきたいです!
ということで今回は、施設の職員さんにお借りした資料をもとに、現状と課題をまとめていきたいと思います!
障がいがある子どもたちの割合は?
まずは、児童養護施設で暮らす子どものうち、どのような障がいがある子たちがどれくらいいるのかをみていきます。
心身の状況として該当のある子どもたちの割合は全体の36.7%。
そのうち、このような障がい(重複回答あり)が挙げられます。
広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)|8.8%
注意欠陥多動性障害(ADHD)|8.5%
その他の障害|5.1%
反応性愛着障害|5.7%
児童養護施設を学ぶ際に、よく「最近は障がいがある子が増えているんです」という話を聞きますが、実際はどれくらいの割合で増えているのでしょうか?
厚生労働省が5年おきに公開している「児童養護施設入所児童等調査の概要」を平成10年まで遡って、割合の変化を一覧にしてみました。
それがこちらです。
たしかに一覧にしてみると、「該当あり」の割合が増えていることがわかります。
また平成10年の資料と平成30年の資料を比較すると、社会の変化と共に調査する障がい名が増えていました。
重度心身障害 | H10 | H15 | H20 | H25 | H30 |
聴覚障害 | – | – | – | – | ◯ |
PTSD(外傷後ストレス障害) | – | – | – | – | ◯ |
反応生愛着障害 | – | – | – | – | ◯ |
ADHD | – | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
LD | – | – | ◯ | ◯ | ◯ |
広汎性発達障害 | – | – | ◯ | ◯ | ◯ |
チック | – | – | – | – | ◯ |
吃音症 | – | – | – | – | ◯ |
発達生協調運動障害 | – | – | – | – | ◯ |
高次脳機能障害 | – | – | – | – | ◯ |
その他の社会的養護施設について
ここまで児童養護施設で暮らす子どもたちの心身の状況についてみていきました。
それでは、児童養護施設以外の施設で心身の状況に障がい等の該当がある子はどれくらいいるのでしょうか?
比較資料がこちらです。
児童養護施設よりも自立援助ホームの子達の方が該当ありの割合が多くなっていますね。
おまけ|わたしの経験談
ここでちょこっと、おまけとしてわたしが施設で暮らしていたときの経験談をシェアします!
実際にわたしが施設で暮らしていたとき、特別支援学級に通っている子がいました。
わたしの施設では「障がいがあるから」といって専用の部屋で生活をするのではなく、障害のある子もない子も同じ空間で生活を共にしていました。
そんな環境で生活しているときに「あの子は〇〇障がいなんだよね〜」なんて話をすることはなく、ちょっと丁寧に話しかけたり、話を聞いたりする感じでした。
きっと施設によってやり方も環境も変わるかと思いますが、たくさんある中の一つの事例として受け止めてもらえたらと思います。
2.特別支援学級
小学校、中学校等において以下に示す障害のある児童生徒に対し、障害による学習上又は生活上の困難を克服するために設置される学級。
【対象障害種】
知的障害者、肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者、弱視者、難聴者、言語障害者、自閉症・情緒障害者
文部科学省 2.特別支援教育の現状
施設で暮らす子が受けられる障がい児を対象とした福祉サービス
児童養護施設について伝える活動をしていると、
施設で暮らす障がいのある子どもたちは、放課後等デイサービスに通えるの?
という質問を受けたことがあります。
結論からいうと現在(2016(平成28)年〜)は施設で暮らす子であっても申請をすれば通うことができるようです。
施設等で暮らす障がいがある子どもたちが受けられる福祉サービス
児童養護施設で暮らしている子どもたちが利用するであろうと想定される障がいに関する福祉サービスは主に次の5つです。
- 児童発達支援
- 放課後等デイサービス
- 保育所等訪問支援
- 共同生活援助(障がい者グループホーム)※施設退所後の利用
- 宿泊型自立訓練(通勤寮)※施設退所後の利用
一つ一つみていきます。
児童発達支援は、2012(平成24)年4月1日施行の児童福祉法改正で創設されました。
原則0歳〜小学校入学前の障害のある子どもを対象に、発達支援を提供するものとして位置づけられ、集団生活の中で生きる基礎力を身につけていけるよう、散歩に行ったり、リトミックや体操などの療育の要素を取り入れたりする活動を行います。
社会的養護の児童が利用できるようになったのは2016年(平成28年)からです。
多動・自閉傾向があり、言葉の発達にも気になるところがあったことから、幼稚園やその先の小学校での生活にうまく適応できるように児童発達支援を利用しました。
手厚い体制のなかで特性にあったサービスをしてくれました。またそこでくださったアセスメントについて幼稚園の先生と共有し、その子にとって過ごしやすい環境を一緒に考えることもでき、その子自身の困りごとも軽減できたように思います。
放課後等デイサービスは、2012(平成24)年4月1日施行の児童福祉法改正で創設されました。
社会的養護の児童が利用できるようになったのは2016年(平成28年)からです。
原則6歳~18歳までの障がいのある子や、発達に特性のある子が、放課後や夏休みといった長期休暇に利用できる福祉サービスです。
ちょっと長い名称を略して「放デイ」、「障がい児の学童」と表現されることもあるそうです
通常は、利用したい施設が決まったら市区町村に申請し、「受給者証」が発行されたら通所することができます。
しかし、施設の子どもの場合には「やむを得ない事由による措置」(児童福祉法第21条の6)という扱いでの利用になるため、申請から通所するまでが複雑となっています。
複雑になっている理由については後述します!
ここで、放課後等デイサービスを利用している子どもの声と職員さんの声を紹介します!
楽しい!同じくらいの年齢の子も利用しているので友達もできた!
コミュニケーションについて勉強したり、工作したりしてる
(受験前に)面接の練習にも付き合ってくれた
個別に関われる時間がなかなか取れない中で、余暇支援や学習支援、ソーシャルスキルトレーニングをしていただけるのはありがたい。
保育所等訪問支援とは放課後等デイサービスと同じく、2012(平成24)年4月1 日施行の児童福祉法改正により創設されたサービスです。
一般社団法人全国児童発達支援協議会が発行した「保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書(平成29年3月)」によると
保育所等訪問支援は、(中略)保育所や幼稚園、認定こども園、学校、放課後児童クラブなど集団生活を営む施設を訪問し、障害のない子どもとの集団生活への適応のために専門的な支援を行うものです。
I 保育所等訪問支援とは
3 保育所等訪問支援は何のために行うのでしょうか?【事業の理念、目的】
2)保育所等訪問支援は、普段通所している場所での集団適応を支援するサービスです
と説明されています。
よって、保育所等訪問支援は「普段通所している場所での集団適応を支援するサービス」と書かれているように、専門のスタッフさんが子どもの利用している施設に訪問し、個別に支援をしていく事業ということになります。
そして、2018(平成30)年4月からは児童養護施設で暮らす子どもたちも訪問支援を利用できるようになりました。
なお、平成 30 年 4 月からは「乳児院その他の児童が集団生活を営む施設として厚生労働省令で定めるもの」が追加されることになっており、乳児院や児童養護施設も訪問支援を提供できることになっています。
I 保育所等訪問支援とは
5 どこで行うのでしょうか?【訪問支援の場所】
(1)保育所や幼稚園、認定こども園、教育機関など通所して集団生活を送る施設です
ここで、保育所等訪問支援を利用している子どもの声と職員さんの声を紹介します!
自分のために来てくれるから嬉しい
好きな話につきあってくれる(この子はゲームやプログラミングが好き)
じぶんたちに見せないその子の様子をフィードバックで伺えるので助かる。
また、通院等はどうしてもよくない面(暴力しちゃった等)についての振り返りが主になるが、訪問支援ではポジティブな振り返りをくれるので、その子にとってもとても嬉しい時間・楽しい時間になっている。
自信もついている。
グループホームとは障がいのある人たちが日常生活を送る場所で、介護や支援を受けながら共同生活をする場所です。
障害者総合支援法の障がい福祉サービスの一つで「共同生活援助(グループホーム)」とも言われます。
言葉だけだとイメージしにくいので、どんな場所なのかを聞いてみました。
それがこちらです!
- 一軒家やアパートなどで一緒に生活
- 食事の用意・風呂・トイレなどの介助がある
- 家事は支援員がやるケースが多い
通勤寮を出てグループホームへ入所した子たちは順調に生活することができてるみたいです。
一方で集団生活にうまく適応できずに別のグループホームへ異動となる子もおり、家族という後ろ盾もない子にとっては課題は少なくありません。
宿泊型自立訓練とは知的障害または精神障害のある方に対して、生活の場やその他の設備を利用することを通して、家事等の日常生活能力を向上するための支援、生活等に関する相談・助言など、必要な支援を行います。
2012(平成24)年4月1日施行の障害者自立支援法によって、それまであったサービスから「宿泊型自立訓練」という新体系になりました。
先ほどと同様、言葉だけだとイメージしにくいのでどんな場所なのかを聞いてみました。
それがこちらです!
- 施設で生活をする
- 基本、家事はじぶんで行う
- 自立度が高い
特別支援学校を卒業し、就労した子達の大半が通勤寮でお世話になっていますが、今まで通勤寮に行った子達はみな仕事が続いています!
現状の課題(親の居住地問題)
児童養護施設で暮らしている障がいをもつ子も、放課後等デイサービスや保育所等訪問支援事業、グループホームを利用できることがわかりましたが「一つ大きな課題がある」と施設職員さんから教えてもらいました。
それは施設や里親家庭のある場所ではなく、親(保護者)の住所のある市区町村が申請先になるということです。
障害児通所給付費又は特例障害児通所給付費(以下この款において「障害児通所給付費等」という。)の支給を受けようとする障害児の保護者は、市町村の障害児通所給付費等を支給する旨の決定(以下「通所給付決定」という。)を受けなければならない。
児童福祉法第21条の5の5(障害児通所給付費、特例障害児通所給付費及び高額障害児通所給付費の支給)
② 通所給付決定は、障害児の保護者の居住地の市町村が行うものとする。ただし、障害児の保護者が居住地を有しないとき、又は明らかでないときは、その障害児の保護者の現在地の市町村が行うものとする。
(略)当該障害者等が満十八歳となる日の前日に当該障害者等の保護者であった者(以下この項において「保護者であった者」という。)が有した居住地の市町村が、支給決定を行うものとする。
*障害者総合支援法第19条の4(介護給付費等の支給決定)
ちなみに親が死亡していたり、行方不明だったりする場合等は施設等の所在地が申請先になります。
・申請にあたっては児童相談所も市区町村と連携することとされている
参考「里親に委託されている児童が保育所へ入所する場合等の取扱いについて」厚生労働省 児家第50号 平成11年8月30日
それによって何が起きるのか。
職員さんに教えてもらった3つの実話を紹介します。
親の居住自治体=申請先 / サービスの決定先になるということは、親が引っ越してしまうと再申請が必要になります。
しかし、サービスの利用決定の基準は自治体によって異なるため、それまで放課後等デイサービスを利用していたA君は親が引っ越してしまったことで利用ができなくなりました。
特別支援学校 高等部3年生のBさんは、この秋無事に企業から内定をもらい、会社の近くの知的障害者通勤寮への入所を希望し、C区に利用申請をしました。
スムーズに手続きが進んでいたのですが、その矢先に親がD区へ引っ越し。
そのため手続きが大幅に遅れてしまい、通勤寮へのエントリーが済んだ頃には入所が3年待ちに…
親の居住自治体が申請先になる理由
なぜ、施設や里親家庭のある場所ではなく、親の住所のある市区町村が申請先になるのか・・・
職員さんはつぎのように言っていました。
施設等に所在する自治体に財政的負担が偏らないようにするためにこのような制度設計になっているようです。それによって一部の子どもへの不利益・権利侵害ともいえる状況が生じている現実を何とかしたいと思っています。
東京都の児童養護施設で暮らすE君は退所後の住まいとして、アフターケアがしやすく、かつなるべく慣れ親しんだ環境で暮らせるよう施設の近隣の障がい者グループホーム(共同生活援助)への入所を検討。
その際、親の居住地が埼玉県F市にあり、F市が支給決定自治体であることをグループホームに説明すると「都外ケース*になってしまうのでごめんなさい….」と言われ、そこに入所することができませんでした…
そして、その他にもこのような要因が「障がい福祉サービスを利用するハードルを上げている」と教えてくれました。
- 社会的養護の子どもがサービスを利用する場合は上記厚労省の通知に書かれているように「やむを得ない事由による措置」という特殊な扱いになるため戸惑う自治体担当者の方が多い
- 費用の徴収が免除(施設・里親はもちろん親からも)される点もイレギュラーな扱いになるため申請に手こずることがある
こういった制度上の理由から通所を打ち切りになったり、卒園後の住まい探しを難航させたりしているんですね…子どもの楽しそうな声を聞いた上でこの事実を知ると胸が苦しくなります…
ちなみにこうした現場の声を受け、厚生労働省は2021(令和)3年3月31日付で「措置児童が障害児通所支援等を利用する場合の事務処理要領及び障害児を受け入れる乳児院及び児童養護施設における保育所等訪問支援の積極的な活用について(周知のお願い)」という通知を各都道府県・自治体へ発出してくださいました。
根本的な解決とは言えないものの、少しでもサポートが必要な子が円滑にサービス利用につながることを期待しているとともに、この通知では解決されない東京都におけるグループホームへの入所問題についても引き続き発信していきたいと思っています。
まとめ
それでは今回の記事のまとめです!
- 児童養護施設で暮らす子どものうち、心身の状況に該当のある子は全体の36.7%
- 自立援助ホームの子の該当ありの割合は46.3%
- 現在は施設で暮らす子も障がい福祉サービスを受けることができる
- • そのうち、児童養護施設で暮らしている子どもたちが主に利用するであろうと想定されるサービスは①児童発達支援 ②放課後等デイサービス ③保育所等訪問支援 ④グループホーム(退所後)⑤通勤寮(退所後)
- しかし、サービス利用の申請先と支給決定先が親の住所のある市区町村になることで、利用していた事業が使えなくなったり、手続きが遅れることでその後の生活の見通しが立てられなくなる子がいる
いかがでしたでしょうか?
児童養護施設に関する課題を深堀すると、実親がネックになる課題というのがいくつか発生してきます。
例えば、携帯電話の契約・住居の賃貸借契約など…
以前の記事でも記載しましたが、児童養護施設というと親のいない子が預けられる施設という印象があると思いますが、実はその93.3%が親のいる子ども達となっており、その内の71.6%が施設入所後も面会などの交流を続けています。
児童養護施設ってどんなところ?〜施設で10年間暮らした福祉系モデルが語る〜しかし、子ども達が施設に入るというのは、多かれ少なかれ親子間で良好な関係を維持、または築けなかった結果であり、これはあくまでも私の感想ですが、このように親御さんの課題が表面化する多くの場合が、親御さんとの関係がとくにうまくいっていない子ども達であるという印象があります。(一度統計的に調べてみたいです)
今後、社会的養護における課題を議論していくうえでも、施設にいる子ども達と実親の関係(法的含む)については実際に多くの課題があることは確かなのだから、今一度整理していく必要があるのではないでしょうか。
里親で、療育の必要な里子を預かっています。今回の記事、ユーチューブ等にあった、厚生労働省の通知のおかげで、里子の保護者の居住地自治体の措置が受けられ、放課後等デイサービス利用ができることになりました!ありがとうございました。児童養護施設にいた時には、療育の必要性を伝えても、全く対応していただけなかったので、東京等の児童養護施設の職員さんがたが、障害福祉サービスに理解を示されているのが、羨ましいです。地方でも療育の必要な児童養護施設のこどもにサービスが届くよう、施設職員の意識が変わるといいな、と思います。
コメントありがとうございます!今回の記事作成に協力してくださった施設職員さんにお伝えしたところとても喜んでいました。東京都に限らず、すべての都道府県において社会的養護のもとで過ごす子達が障がい福祉サービスが受けられるようになることを願って、今後も細々と発信を続けたいと思います。