いままで、児童養護施設や自立援助ホームなど「社会的養護」に関する施設の暮らしなどをご紹介してきましたが、そもそも「社会的養護ってなに?」と思われていた方も多いと思います。

本当は、前回の流れで自立援助ホームの続きを記事にしたかったのですが、調査が間に合わず…
今回はそもそも「社会的養護」とはどんなものなのかについて、みなさんに紹介していきたいと思います。
社会的養護とは
生みの親と一緒に暮らせない子を社会で養育するしくみのこと
まずは厚生労働省が公開している「社会的養護」に関する文言を紹介します。
社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。
厚生労働省HPより

簡単にいうと、親元で暮らすことが難しい子どもたちを国の公的機関で保護・養育し、子どもだけでなく、その家庭の支援を行いますよ〜ということです。
現在、社会的養護を必要とする子は約45,000人。
厚生労働省の「社会的養育の推進に向けて(令和2年4月)」によると、児童養護施設や乳児院といった施設で暮らす子が84%(37,154人)、里親やファミリーホームで暮らす子が16%(7,104人)となっています。

必要としているのは日本の何割の子達?
それでは、日本の子ども・若者のうち、どれくらいの子たちが社会的養護を必要としているのでしょうか?
平成27年度版 子供・若者白書(全体版)(平成26年10月1日現在)によると、日本の0〜20歳の人口は22,238,000人。
仮に社会的養護を必要とする子どもの数を45,000人とすると(単純に比較はできないですが)日本の子ども・若者の人口のうち約0.2%の子達が社会的養護のもとで暮らしていることになります。

こうやって計算すると、だいぶ少ないことがわかります…そりゃめったに出会えないわけだ。
【施設養護と家庭養護】2種類の養育のかたちがあります
ここから少しややこしくなるのですが、社会的養護には大きく分けて2種類の養育方法があります。
それは ①施設養護 と ②家庭養護 です。
そしてさらに細かく分類すると、施設養護のなかでも家庭的な環境で養育することを「家庭的養護」と言います。
なぜ、細かく分類されたのか・・・
それは下記の理由とされています。
- 児童養護施設等において養育環境の小規模化が進んでいること
- 集団的な養育ではなく、個別的・治療的な養護を実践するため
引用『保育と社会的養護原理』

学校のような大きい建物に100人以上の子が暮らしている「マンモス施設があった」と聞いたことがあります。
また、児童福祉施設というのは一つの建物で暮らす子どもたちの人数によって形態の呼び方が変わっており、次のようになっています。

一番最後に紹介しますが、今後の社会的養護は 児童が心身ともに健やかに養育されるよう、より家庭に近い環境での養育の推進を図ることが必要(「家庭と同様の環境における養育の推進」児童福祉法)とされており、小舎制のなかでも、より小さい単位での養育環境が推奨されています。
少し話が脱線してしまいましたが、皆さんにわかりやすいように、私なりに各児童福祉施設を施設養護と家庭養護に分類すると以下の図のようになります。


なんとなく、イメージがつきましたでしょうか?
施設養護と家庭養護の違いは?

漢字だけ並べられると、とっつきにくくて分かりにくい印象をもちますよね。
ここからは、「施設養護」と「家庭養護」について、それぞれどのような養育のかたちなのかを見ていきたいと思います。
施設養護とは

施設養護はその言葉通り、施設で養育するかたちです。
みなさんも耳にしたことのある施設が多いかと思いますが、各施設の名称と概要を簡単に紹介していきます。

今後それぞれの施設について詳しく紹介していきますので、SNS等で更新をチェックしていただけると嬉しいです!
保護者から育てられない0〜1歳未満の乳児が暮らす施設です。その子が乳児院をでたあとも相談・援助を行う施設とされています。
平成16年の児童福祉法改正により、特に必要のある場合には就学前までの入所が可能になりました。
おおむね2〜18歳までの子が暮らす施設です。
原則18歳まででしたが、自立が難しい場合は22歳の年度末までいられるようになりました。
①両親からなんらかの虐待を受けた子 ②なんらかの理由で両親のもとで育てられない子 ③なんらかの理由で親のいない子 が生活しています。
虐待等によって心の問題を抱えた日常生活に支障のある子どもに対して、個別に合わせた生活支援を基盤にし、心理治療を行っていく施設です。
子どもの行動上の問題、とくに非行問題を中心に対応する施設です。
他の施設では対応が難しくなったケースの受け皿としての役割をもっています。
平成9年の児童福祉法改正により、家庭環境・その他環境上の理由により生活指導等を必要とする児童も対象に加わりました。
18歳未満の子どもを養育している母子家庭、または何らかの事情で離婚の届け出ができないなど、母子家庭に準ずる家庭の女性が子どもと一緒に利用できる施設です。
近年ではDV被害者(入所理由が夫等からの暴力)の入所が56.6%を占めています。(厚生労働省HPより)
家庭的養護とは

施設養護のなかでも少ない人数で養育するかたちです。
①小規模グループケア ②地域小規模児童養護施設 というかたちがあります。
定員数の違いや、措置費上の仕組みにより設置数の基準に違いはありますが、どちらもグループホームという点では同じ形態の施設です。
本体施設の敷地内で行うものと、敷地外でグループホームとして行うもの(分園型小規模グループケア)があります。
1グループの児童定員 | 6人以上〜8人以下 |
設置数 | 6ヶ所まで(※) |
本体施設の敷地外でグループホームとして児童養護施設を設置するかたちです。本体施設の支援の下で、地域の民間住宅などを活用して養育を行います。
1グループの児童定員 | 6人 常に現員5人を下回らないようにすること |
設置数 | 複数設置可能(※) |
家庭養護とは

家庭養護はその言葉通り、施設のような大人数での暮らしではなく、養育者の家庭で子どもを養育するかたちです。
家庭養護は2つあります。
別の呼び方:小規模住居型児童養育事業
平成21年度に創設された制度で、養育者の住居において行う点で里親と同様であり、児童5~6人の養育を行う点で、里親を大きくした里親型のグループホームです。(厚生労働省HP)
社会的養護は今後どうなっていくの?
社会的養護の大枠についてわかってきたところでこんな疑問。

SNSやテレビで「里親、里親」って耳にするけど、今後社会的養護はどうなっていくの?
そこで、今後の社会的養護について、その方向性を理解するためにつぎの資料の内容を紹介します。
虐待を受けた子どもや、何らかの事情により実の親が育てられない子どもを含め、 全ての子どもの育ちを保障する観点から、平成 28 年児童福祉法改正では、子どもが 権利の主体であることを明確にし、家庭への養育支援から代替養育までの社会的養育の充実とともに、家庭養育優先の理念を規定し、実親による養育が困難であれば、 特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進す ることを明確にした。
新しい社会的養育ビジョン 平成29年8月2日
これは、国会において全会一致で可決されたものであり、我が国 の社会的養育の歴史上、画期的なことである。
社会的養護にとって、この児童福祉改正法がいかにターニングポイントであったかが記載されています。
そして、この改正児童福祉法の理想を実現するために、以下の項目について、速やかに改革に着手するとされています。
- 市区町村を中心とした支援体制の構築
- 児童相談所の機能強化と一時保護改革
- 代替養育における「家庭と同様の養育環境」原則に関して乳幼児から段階を追っての徹底、家庭養育が困難な子どもへの施設養育の小規模化・地域分散化・高機能化
- 永続的解決(パーマネンシー保障)の徹底
- 代替養育や集中的在宅ケアを受けた子どもの自立支援の徹底
また、改正の概要のなかで「児童福祉法の理念の明確化等」という項目があります。

そこに「今後の社会的養護」という点で一番わかりやすいポイントを見つけました。
それは「国・地方公共団体は、保護者を支援するとともに、家庭と同様の環境における児童の養育を推進するものとする」という文言で、次の3つのポイントを挙げました。
- まずは、児童が家庭で健やかに養育されるよう、保護者を支援すること
- 家庭における養育が適当でない場合は「家庭における養育環境と同様の養育環境」において継続的に養育されること
- ②の措置が適当でない場合は児童が「できる限り良好な家庭的環境」で養育されるように措置をすること

よって、上記の図のように、施設養護 < 家庭的養護 < 家庭養護の推進が行われていくことがわかります。

だからこの改革によって、特別区(東京23区)に児童相談所ができたり、施設よりも里親制度を推進する流れになってるんだね!
まとめ
- 社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと
- 社会的養護には「施設養護」と「家庭的養護」・「家庭養護」に分けられる
- 社会的養護を必要とする子は約45,000人。そのうち、施設で暮らす子が84%(37,154人)、里親やファミリーホームで暮らす子が16%(7,104人)
- 社会的養護は、今後「施設養護」より、「家庭的養護」や「家庭養護」といった「できる限り家庭と同様の環境による養育」を推進していく
いかがでしたでしょうか?

今年に入ってから数人の施設職員さんに話を聞く機会があったのですが、「いまが転換期」という言葉を何度か耳にしました。
それはきっと、児童福祉法が改正され『新しい社会的養育ビジョン』に向かって、さまざまな制度が過渡期を迎えつつある証拠ではないでしょうか。
この『新しい社会的養育ビジョン』によって、少しでも全ての子どもたちに優しい未来が訪れることを願っています。
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