こども虐待とは?日本の現状と国が進める新たな地域支援

日本では、2000年に「児童虐待防止法」が制定されてから、児童虐待への意識が高まり、全国の児童相談所での対応件数も急増しています。この20年間で相談件数は年々増え、虐待の実態やその背景にある様々な課題が少しずつ明らかになってきました

どうしても「児童虐待」というと、遠い問題であって自分には関係がないと感じる方も多いかもしれません。しかし、育児の孤立化が虐待につながるリスクを考えると、どの家庭も無縁ではないのが現実です。

お父さん・お母さんが悩みを抱え込みすぎないよう、そして一人で悩まなくてすむように、国では「地域支援」として、身近な場所で子育て支援サービスを利用できる体制づくりを進めています。

今回の記事では、日本における児童虐待の現状を読み解き、国が地域支援に踏み込むようになった背景についてわかりやすく解説していきたいと思います!

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ちなみに毎年11月はこども虐待防止月間!正しく知って、自分たちに何ができるか考えてみてね!

児童虐待の現状

制度等改正の変遷

まずは児童虐待を取り囲む法制度等の変遷について見ていきます。

年月日法律・手引き名説明
2000年(平成12年)児童虐待防止法児童虐待防止法制定
2004年10月(平成16年)児童虐待防止法配偶者間の暴力(面前DV)が心理的虐待に含まれることが明確化
2013年5月(平成25年)子ども虐待対応の手引き手引きの中で、直接的に虐待されていなくても、他のきょうだいが虐待を受けている様子を目撃することで、その子自身が精神的な苦痛や恐怖を感じるため、それも「心理的虐待」であると例示
2013年12月(平成25年)警察によるDV事案の積極的な介入により警察からの通告が増加
2015年12月(平成27年)児童相談所全国共通ダイヤル(189)へ
2019年12月(令和1年)児童相談所全国共通ダイヤル(189)を無料化

ご覧いただくとわかるように、児童虐待についての法律ができたのは2000年。意外にも若い法律であることがわかります。

この法律ができてから、全国の児童相談所で児童虐待の対応件数を数え、見える化されるようになりました

児童虐待の件数と推移

つづいて、児童虐待の件数とその推移を見ていきます。

児童虐待防止法ができた2000年は1,101件、そこから右肩上がりで増加し、令和4年度中に全国232箇所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は219,170件で過去最となっています。

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法改正の変遷でも紹介したように、2013年(平成25年)は警察によるDV事案の積極的な介入があって、前年度比の+10.6%、次年度は20.5%と増加しているよ。

この、児童虐待の統計を見るときの大事なポイントは「その年に初めて虐待が発見されて相談があった」ということ。

基本的に虐待の相談は0歳から18歳まで受け付けていますが、例えば中学生で初めて相談があったとすると、就学前や小学生の間も家庭環境が苦しい状況が予想されます。

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諸外国ではこども人口の1%が児童虐待の件数と言われているので「日本ではまだまだ潜在的な児童虐待がある」という大学の先生もいたよ

虐待の種類と内容

では、21万件の虐待相談というのは、どのような虐待のことを指すのでしょうか?

よく「どこからどこが虐待なの?」という質問を受けますが、日本における児童虐待は①身体的虐待②性的虐待③ネグレクト(育児放棄)④心理的虐待の4つに分類されています。

一つ一つ解説していきます!

①身体的虐待

殴る、ケル、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など

引用|こども家庭庁:児童虐待の定義(児童虐待の防止等に関する法律 第二条)
https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai

②性的虐待

こどもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など

引用|こども家庭庁:児童虐待の定義(児童虐待の防止等に関する法律 第二条)
https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai

虐待のなかでも割合が一番少ないのが性的虐待です。

その背景には、幼い頃から行為が日常化していたり、性教育が行き届かない年齢だったりすると、当事者が「それはおかしいこと」という認識を持てないまま虐待が続くことが理由として考えられます。

③ネグレクト(育児放棄)

家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など

引用|こども家庭庁:児童虐待の定義(児童虐待の防止等に関する法律 第二条)
https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai

④心理的虐待

言葉よる脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、こどもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティックバイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う など

引用|こども家庭庁:児童虐待の定義(児童虐待の防止等に関する法律 第二条)
https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai

私は、こども家庭庁が定義する「心理的虐待」に該当する「言葉による脅し」を受け、児童相談所に一時保護されました。その1か月半後には児童養護施設での生活が始まりました。実感として、一緒に暮らしている子たちにも心理的虐待のケースが多い印象を受けています。

上記4種類のなかでも、一番多いのは言葉による脅し・無視が含まれる心理的虐待(59.1%)、続いて殴る・蹴る・叩くといった身体的虐待(23.6%)という順番になっています。

また、近年議論されている虐待には、「教育虐待」や、「保護者の宗教信仰が関わる虐待」も含まれます

特に、宗教が関係する虐待については、三菱UFJ&コンサルティングが調査を行っています。こちらは別の機会に詳しく紹介しますが、この結果を踏まえ、今後こども家庭庁でも議論が進むことが予想されます。

話が少しそれましたが、現状の日本では、身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、心理的虐待、そして性的虐待の4つが児童虐待の定義として定められ、社会的養護をはじめとする子どもたちの命を守るための制度が整備されています。

社会的養護とは?現状と課題、日本での必要性について

虐待を受けた年齢と虐待死

つづいて、虐待を受けたこどもの年齢と、近年報道で増えている児童虐待による死亡事案についてみていきます。

虐待を受けたこどもたちの年齢構成

まずは、虐待を受けた子どもたちの年齢構成についてです。

令和3年度の統計を見てみると、虐待を受けたこどものうち0〜3歳未満が18.7%、3歳〜就学前が25.3%となっています。よって、就学前の6歳未満の児童虐待が約40%を占めていることがわかります。

くも
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7歳、8歳、9歳といった年齢別の詳細な統計は手元にないけれど、小学校低学年も含めると10歳未満の子どもたちの虐待が全体の半数以上にのぼるんだね。

以前、行政関係者の方から「就学前の子どもへの虐待防止が急務だ!」という話を伺ったけれど、こうした背景があったからこその発言だったんだね。納得!

0~3歳未満3歳~学齢前児童小学生中学生高校生
その他
総数
平成16年度6,479件
19.4%
8,776件
26.3%
12,483件37.4%4,187件
12.5%
1,483件
4.4%
33,408件
平成17年度6,361件
18.5%
8,781件
25.5%
13,024件37.8%4,620件
13.4%
1,686件
4.9%
34,472件
平成18年度6,449件
17.3%
9,334件
25.5%
14,467件38.8%5,201件
13.9%
1,872件
5%
37,323件
平成19年度7,422件
18.3%
9,727件
23.9%
15,499件
38.1%
5,889件
14.5%
2,102件
5.2%
40,639件
平成20年度7,728件18.1%10,211件23.9%15,814件37.1%6,261件
14.7%
2,650件
6.2%
42,664件
平成21年度8,078件18.3%10,477件23.7%16,623件37.6%6,501件
14.7%
2,532件
5.7%
44,211
平成22年度11,033件19.6%13,650件24.2%20,584件36.5%7,474件
13.3%
3,643件
6.5%
56,384件
平成23年度11,523件19.2%14,377件
24%
21,694件36.2%8,158件
13.6%
4,167件
7%
59,919件
平成24年度12,503件18.7%16,505件24.7%23,488件35.2%9,404件
14.1%
4,801件
7.2%
66,701件
平成25年度13,917件18.9%17,476件23.7%26,049件35.3%10,649件14.4%5,711件
7.7%
73,802件
平成26年度17,479件19.7%21,186件23.8%30,721件34.5%12,510件14.1%7,035件
7.9%
88,931件
平成27年度20,324件19.7%23,735件
23%
35,860件34.7%14,807件14.3%8,560件
8.3%
103,286件
平成28年度23,939件19.5%31,332件25.6%41,719件
34%
17,409件14.2%8,176件
6.7%
122,575件
平成29年度27,046件20.2%34,050件25.5%44,567件33.3%18,677件14%9,438件
7.1%
133,778件
平成30年度32,302件20.2%41,090件25.8%453,797件33.7%21,847件13.7%10,802件
6.8%
159,838件
平成22年度は東日本大震災の影響で福島県を除いたもの
0~3歳未満3歳~学齢前児童小学生中学生高校生
その他
総数
令和1年度37,826件
19.5%
49,660件
25.6%
65,959件
34%
26,709件
13.8%
13,626件
7%
193,780件
令和2年度39,658件
19.3%
52,601件
25.7%
70,111件
34.2%
28,071件
13.7%
14,603件
7.1%
205,044件
令和3年度38,752件
18.7%
52,615件
25.3%
70,935件
34.2%
30,157件
14.5%
15,201件
7.3%
207,660件

虐待死と0日児死亡

虐待のなかでも6歳未満の割合が40%、小学生にまで広げると78%ということがわかりましたが、報道等で紹介される虐待死というのは何歳が多いのでしょうか?

私自身、虐待死についてはまだ学び始めたばかりですが、命に関わる大切な現実としてぜひ共有したいと思います。

この、虐待死の統計を見るのはとても胸が痛むことですが、日本では2015年から毎年、こども虐待による死亡事例の検証を行っています。

の10年間の検証で明らかになったのは、889件・939人の虐待死のうち、0歳児の虐待死が全体の48.5%、さらに3歳以下に絞ると76.1%が命を落としているという事実です。

こども家庭庁 児童虐待防止対策部会(第1回)令和5年5月12日
資料3:こども家庭福祉をとりまく現状と対応
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/277bd31e-b9f4-4cc5-8e2b-2dc2cb0ad159/8c89d737/20230401_councils_shingikai_gyakutai_boushi_277bd31e_12.pdf

特に衝撃的なのが、0歳児の虐待死(48.5%)のうち、1日も経つことなく「0日児死亡」となる割合が18.4%にも及ぶことです。

こうした現実の背景には、予期しない妊娠や計画していない妊娠が27.7%妊産婦検診を受診していないケースが27.2%含まれていることもわかっています

この10年間の検証結果を踏まえて、国は子育て支援サービスを大きく見直し、より早期に母子保健分野や児童福祉分野につながる地域支援の充実を図り始めています。

次は、その支援サービスについて詳しく紹介していきます。

参考|虐待を受けたあとの流れ

ここで、参考情報として、虐待を受けたこどもたちのその後について紹介していきます。まずはこちらの図をご覧ください。

現在の日本では、虐待を受けたあとの対応は基本的に児童相談所が行うことになっています。そこで、児童相談所で働く児童福祉司がその家族について調査し、必要と認められれば家庭から一時的に離れて生活する「一時保護」という法的に強い措置を行います。

一時保護の間、家庭の調査は主に児童福祉司によって行われますが、その調査の結果、家庭にいることが難しいと判断された場合、児童養護施設や里親の元で生活をすることになります。

ただ、下記画像のデータからもわかる通り、実際に施設や里親へ移行するケースは全体の1割(4,421件)に満たず、虐待を受けた子どもたちの約9割(20万人)は家庭に戻って過ごしています

家庭に戻った後も児童福祉司が関与し、親子関係の調整や支援が続けられますが、活動を通じて気づいたのは、「家庭に戻った後にさらにひどい虐待を受けた」という声があることです。

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視点のポイントは2つ!

家庭内で苦しい状況に置かれている子どもたちが一定数いること、②今もなお、虐待を見つけてもらえず、家庭でつらい思いをしている子がいるということ。この視点が大切!

だからこそ、地域で早期に虐待を発見し支える仕組みが重要で、過酷な環境にいながらも初めて保護されたお子さんたちに対しては、専門的なケアが求められるのです。

【虐待予防】新たな地域支援

ここで本題に戻ります。

これまでの日本の制度は、家庭か施設かのどちらかしか選択肢がない設計でした。しかし、統計からもわかるように、施設には受け入れられる子どもの数に限界があり、施設で暮らすとなると、見慣れた土地を離れることも多く、子どもにとって負担が大きくなることもあります

子どもは自分で行きたい施設を選べない仕組みだから、なじみのある環境から遠ざかるのもやっぱり大変だよね…

こうした背景や、虐待が年々増加している現状を受け、国は「地域支援」という新しい選択肢を充実させる方向で動き始めました。家と施設の中間を担う新たな制度が今、続々と整備されようとしています

ここでは、その中でも特に注目されている取り組みをいくつかご紹介します!

こどもショートステイ事業

こどもショートステイ事業、正式には「子育て短期支援事業」といいます。

これは、保護者が入院や通院、冠婚葬祭、出張、育児疲れなどで一時的に家庭での養育が難しくなった場合、児童養護施設などで一時的に子どもを預かってもらえる制度です。

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自治体にもよるけど、生活保護世帯やひとり親世帯に対しては、料金を下げたり無償で利用できる場合もあるんだよ。

1泊3,000円で食事も出るなら、子育て家庭にとっては助かるかもしれないね。この制度がもっと知られて、気軽に利用できるような雰囲気が広がるといいなぁ。

こども若者シェルター

この取り組みは「宿泊を伴う居場所」を提供するものです。まだ検討段階ではありますが、一時保護や施設入所に代わる新しい居場所として、今後整備が進められています。

今までの「居場所」って、若者向けのユースセンターであっても20時までしか空いていなかったから、宿泊ができる居場所は日本でも本当に新しい取り組みだね!

こども家庭センター

こども家庭センターについて(令和6年度保健師中央会議行政説明 資料16)
こども家庭庁支援局虐待防止対策課https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/001283333.pdf

まとめ

ということで、今回の記事のまとめです!

  • 児童虐待についての法律ができたのは2000年。この法律ができてから、全国の児童相談所で児童虐待の対応件数を数え、見える化されるようになりました。
  • 日本における児童虐待の定義は①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト(育児放棄)、④心理的虐待の4種類
  • 虐待を受けているお子さんの年齢は6歳未満が約40%と一番多い
  • 10年間行っている虐待死による事例検証でわかってきたのは、889例939人のうち0歳児の虐待死が48.5%、3歳児以下にしぼると76.1%
  • こどもが死亡する背景には、予期しない妊娠や計画をしていない妊娠が27.7%、妊産婦検診の未受診が27.2%ということもわかってきています
  • 死亡事例とその背景がわかってきたところで、国はこどもショートステイ事業やこども若者シェルター、切れ目のない妊産婦支援など、地域支援の強化・充実に取り組み始めています

いかがでしたか?

よく、児童虐待を巡る日本の現状は「失われた30年」と言われますが、私はそう感じていません。それは、児童福祉を支えてくれた多くの専門職や、限られた予算の中で行政改革を進めてきた関係者たちの存在を知っているからです。

中には、子どもたちの厳しい養育環境に向き合いながらも、制度の限界に苦しみ、やりがいを見失いかけた職員もいました。それでも、諦めることなく子どもたちの生活環境を少しでも改善しようと尽力してきた人たちがいます。

こうした一人ひとりの情熱と行動が、いま日本全体に変化をもたらし、次の世代を支えるための一助となっているのだと思います。

虐待や福祉というと、自分には関係のない大きな問題と感じる人もいるかもしれませんが、これらのサービスは本来、誰もが自然に使えるものであるべきだと私は考えています。

どの地域に住んでいても、必要なときに安心して手を差し伸べられるよう、福祉サービスが身近な存在になる工夫を児童福祉に携わる人たちは模索しています。

ぜひ、こうした取り組みの現状を知り、地域の力とつながることが当たり前の社会を、みんなで築いていけたら嬉しいです。

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