自立援助ホームの課題

少し時間が空いてしまいましたが、以前自立援助ホームの概要や暮らしぶりについて、記事にさせていただきました。

ぱくたそ 児童福祉の最後の砦「自立援助ホーム」とは? 【現役スタッフが解説】自立援助ホームでの暮らし!

そして、その記事をまとめている中で新たな疑問点も生まれてきました。

今回はそんな自立援助ホームについて、新たな疑問を切り口に浮かび上がってきた課題について、実際に埼玉県内のとある自立援助ホームさんでお伺いした話しを主軸に、少し深掘りしていきたいと思います!

(トップ画像提供 / つっきー)

自立援助ホームが「最後の砦」と呼ばれる理由

以前の記事でも、自立援助ホームが社会的養護における『最後の砦』であるというお話をさせていただきました。

当初、この言葉の意味については次のような認識でいました。

「児童養護施設を退所した子の生活が安定するまでの期間いる場所」「年長児で今さら児童養護施設に入るのは遅いから自立援助ホームへ」といった側面があるから「最後の砦」なんだろうなぁ

しかし、実態は少し違っていました。

どのような子が児童養護施設ではなく自立援助ホームに来るのかついては、担当の職員さんの想いやその子の状況によって変わってくるので一概に「こうです!」とは言い切れないのですが、

実際に児童養護施設の職員さんと自立援助ホームの職員さんに聞いた話をもとにまとめていきたいと思います。

なぜ児童養護施設ではなく自立援助ホームへ?

①年長児の受け入れ

まずは年長児です。

一般的に、年長児で保護されると、児童養護施設ではなく自立援助ホームに措置される場合が多くなります

その理由について職員さんはこのように言っていました。

児童養護施設の職員さん
児童養護施設の職員さん

職員との関係構築や既に入所している子たちとの兼ね合いから、高校生で急に入所すると行き場がなくなってしまうんです。

また年長児の中には、その歳になるまで(長年)虐待を発見できなかったことから、より深い心の傷を負っている場合があります。

すると集団生活に馴染めなかったり、虐待の内容によっては(長期間のネグレクト)社会常識を著しく欠損している場合があるのです。

自立援助ホームの職員さん
自立援助ホームの職員さん

(中には)電車移動さえ難しい子や提出書類なんかであるR,H,Sといった元号がわからない子もいます。

②児童養護施設退所者の受け入れ

次に自立援助ホームへくる子として挙げられるのは、高校や大学に進学せず児童養護施設の退所を余儀なくされた中で、まだまだ自立が難しい子です。

進学しなかったが故に児童養護施設を退所することになりましたが、年齢はまだ15歳もしくは18歳程度です。

児童養護施設を退所した子のなかにはしっかりとした会社に正社員として就職し、自立できる子もいます。

しかし、そうした子は以前の記事で紹介した通り少数です。

児童養護施設退所者が就職後に待ち受ける困難

親御さんの支援がない中で未成年が完全に自立するというのは、経済面、または精神面においても、とても難しいことではないでしょうか?

実際、職員さんもこのように言ってました。

児童養護施設の職員さん
児童養護施設の職員さん

社会的自立としての一人暮らしが難しい(経済面、生活面のスキル)場合に、子どもと相談しながら18歳の卒園と同時に自立援助ホームへ入居する場合があると思います。

このように、ある意味児童養護施設の中でも、自立が難しい子ほど自立援助ホームへと進むこととなります

まさに、このような意味において社会的養護における「最後の砦」となっていると言うことになります。

おまけ|職員さんの声

自立援助ホームが社会的養護における「最後の砦」と呼ばれる理由がわかったところで、インタビューする中で知った自立援助ホームと児童養護施設の関係性の変化をご紹介します。

児童養護施設 職員さん
児童養護施設 職員さん

施設で暮らせる年齢が上がったこと、奨学金制度の充実や障がい手帳を取得し福祉サービスを受ける子が増えたことから、児童養護施設から自立援助ホームへくる子は減少傾向になってきていると思います

児童養護施設 職員さん
児童養護施設 職員さん

数年前までは措置延長(施設で暮らせる年齢が上がる)や自立支援事業がなかったので、18歳で児童養護施設を卒園と同時に住む場所として自立援助ホームを選ぶこともありました。

このように、国や行政の制度の変化に伴い、自立援助ホームと児童養護施設の関係性が変化しているんですね。

自立援助ホームから自立していくことの難しさ

ここからは自立援助ホームの課題について、みなさんと共有したいと思います。

ここまで記述してきた通り、自立援助ホームには児童福祉施設の中でもより複雑な背景を持った子たちが入所しています。

すると、自ずと自立への道は険しいものとなっていきます。

自立援助ホームの職員さん
自立援助ホームの職員さん

途中でバイトが続かなくなり、地元の(悪い)友だちと遊ぶようになったり、彼氏ができて仕事そっちのけになる子もいます。

そうして結局、(自立できないままに)自立援助ホームを出て行ってしまうのです。

自立援助ホームの入居者のうち、約77%が中卒・高校中退者となっています。(『自立援助ホームハンドブック さぽうとガイド』p.138)

すると、良い条件の就職先を見つけることは難しく、正社員ではなく派遣社員やアルバイトといったかたちとなり、生活基盤は安定しません。

自立援助ホームの職員さん
自立援助ホームの職員さん

バイトをしても欠勤・早退が続き、職場の人間関係が難しくなってしまう子もいます。

そして、少しでも就職の条件を良くするために、高校進学への進学を考えても、自立援助ホームは利用料を支払わなくてはいけなく、また未成年だと23時以降は働けないため、昼間の仕事・バイトをしなくてはならず、通信制もしくは定時制の学校への進学となります。

定時制では、進学率も全日制の高校と大差ありませんが、通信制高校の進学率は18.5%(「平成30年度 学校基本調査」より)に留まっています。

自立援助ホームの職員さん
自立援助ホームの職員さん

当ホームでは、10年目にして初めて大学への進学者が出ました!

自立援助ホームの職員さん
自立援助ホームの職員さん

なかには全日制の高校へ通う子の受け入れを積極的にしている自立援助ホームもあります!

このように、現状では良い進学先や就職先までなかなか到達できず、自立への道のりは大変厳しいものとなっているのです。

ホーム運営における財政的課題

自立援助ホームを取り巻く課題の中には、利用する子たちだけでなく受け入れ側であるホームにも大きな課題があります。

それが財政問題です。

現状、自立援助ホームの財政事情は以下のようになっています。

この図はある施設の一例に過ぎませんが、これを見て分かるように、財源の多くを行政からの措置費・補助金で賄っていることがわかります。

措置費とは?
「児童福祉法の規定に基づく措置に伴う経費であり、児童福祉施設(児童入所施設)に入所措置を採った場合又は里親への委託の措置を採った場合に、児童福祉施設及び里親への支弁に要する経費※」のことで、子どもがある児童福祉施設で生活することが決められた際に、その施設に対して、行政(国・県・市等)から支給される費用のこと

※『児童保護措置費保育所運営費手帳(平成23年度版)』日本児童福祉協会2011年p.23

「お金が支給されるならいいじゃん!」と思ったかたもいると思いますが、そこで問題になってくるのが、暫定定員制という措置費の支払われかたです。

暫定定員制とは

暫定定員制とは?
施設の入所定員に替えて、前年度等の実績による現実の入所者数を基礎とした数値を暫定定員として設け、その定員に応じて措置費が支払われるものとするもの※

※『児童福祉の領域における子どもの非行・虐待防止のための民間による支援の現状と課題ー子どもシェルターに焦点を当ててー』小西暁和 p.311

言い換えると、施設の定員に合わせてお金が支給されるのではなく、前年度等、実際に入所していた人数をもとに暫定的な定員数を計算し、その分のお金を支給する方法なんですね。

暫定定員制のなにが問題なのか。

全国自立援助ホーム協議会が2019年に出した「2020年度 児童自立生活援助事業 国家予算要望書」には、暫定定員制の問題について以下の通り書かれています。

近年、自立援助ホームは相次ぐ閉鎖、閉鎖の危機に直面しているホームが目立ち、約 4 割のホ ームが暫定定員の経験をしています。これは自立援助ホームの特性上、短期間での入退居や入居予約での部屋確保、退居後のやり直し(定員外)、小規模ゆえの入居者マッチング等、現員数の不安定さによるもので、暫定定員になればスタッフを雇う事も難しく、人材不足でホームの閉鎖を余儀なくされています。

2020年度 児童自立生活援助事業 国家予算要望書
2.ホームの運営に関する事項 2-1 暫定定員要件の緩和 
自立援助ホームの職員さん
自立援助ホームの職員さん

暫定定員制の問題に直面する例で一番多いのは、6人定員の施設なのに4人分のお金しか支給されず、経営が難しくなるケースです。

例えば、6人定員の施設であっても暫定定員が4人で設定されると、4人分の措置費しか支給されなくなります。

すると施設は抑制されます。

そして何よりも、6人を前提として職員を雇ったり、住居(テナント)を借りたりしますので、経営計画は破綻してしまいます。

「最後の砦」と言う役割を担う以上、入居者を安定させることは難しいです。

しかし、社会的養護におけるセーフティネットである自立援助ホームをなくすわけにはいけません。

とすれば、せめて財政的支援に関しては安定した額が保証される制度に移行する必要があるのではないでしょうか。

まとめ

  • 虐待の発見が遅れた高齢児や児童養護施設の中でも経済面、生活面のスキルから社会的自立が難しい子が自立援助ホームに入居したりします。
  • 自立援助ホーム利用者の約77%が中卒・高校中退者となっており、良い条件の就職先を見つけることは難しく生活基盤はなかなか安定しません。
  • 自立援助ホームの財政状況は厳しく、とくに収入のほとんどを占める措置費・補助金に関して、暫定定員制度要件の緩和が求められています。

いかかでしたでしょうか?

社会的養護における「最後の砦」だからこそ抱える課題。そして、セーフティネットだから故に直面する財政的課題について、記載させていただきました。

一方で、全国自立援助ホーム協議会が発行している『さぽうと』に、自立援助ホームの歴史や制度面の変化について書かれているのですが、いまよりも財政的な基盤がないなかで運営してきた実情を知りました。

ですが、自立援助ホームにかかわる皆さんの発信と国や自治体の理解もあり、少しずつですが制度が改善され、新設のホームが増えていったのも事実です。

今回は課題をテーマとしてしまったため、今までの記事とは違い、暗い話しが多かったかもしれません。

しかし、この自立援助ホームの現状を知る人が増え、理解が進むことで取り巻く環境が少しでも改善されればと思い記事にさせていただきました。

これからも「たすけあい」では、親と離れて暮らす子たちが、「負い目を感じることなく暮らせる社会」をつくるために、少しでも理解のある人たちを増やしていくような発信していきたいと思います。

合わせて読みたい!

1 COMMENT

Takara Víctor へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です