みなさんは、自立援助ホームって知っていますか?
「自立援助ホーム」は、「義務教育終了後、児童養護施設、児童自立支援施設等を退所し、就職する児童 等に対し、これらの者が共同生活を営むべき住居」(厚労省)で、児童福祉における「最後の砦」といわれています。
現場の人は「最後の砦」とは言わないんですけどね。
以前の記事で、児童養護施設は高校に進学しないと、15歳で施設を退所し自立しなくてはならず、施設退所者が貧困に陥る理由の一つであるという話をさせていただきました。
まさにそのような施設退所者の受け皿の一つとして、大きな役割を果たしている自立援助ホームですが、実際の入居者は施設退所者よりも家庭からの入居者が多くなっているなど、より大きな社会的役割を果たしています。
今回は、そんな「自立支援ホーム」について、ホームの職員さんへの取材や厚労省の資料を参考にして、お伝えしていきたいと思います!
自立援助ホームとは
①義務教育を終了した15歳~22歳の子が共同生活をする場所
現在、自立援助ホームは全国に176ヶ所あり、643人の子が入居しています(厚生労働省「社会的養育の推進に向けて」平成31年4月)。
児童福祉法第6条の3に基づき運営され、児童自立生活援助事業として位置づけられています。
「児童自立生活支援事業」とは
児童の自立を図る観点から 義務教育が終了した後、つまり満15歳に達した人で、満20歳未満の児童養護施設・児童自立支援施設等を退所して就職する児童 や、大学等に在学中で22歳までの子を対象に
その人たちが共同生活を営む住居(自立援助ホーム)で、 ①相談 ②その他の日常生活上の援助 ③生活指導 ④就業の支援(援助の実施) を行い、
あわせて、援助の実施を解除された人への相談やその他の援助を行うこと により、社会的自立の促進に寄与することを目的とする事業となっています。
(参考:自立援助ホーム運営指針|3.自立援助ホームの役割と理念 (1)自立援助ホームの目的より)
入居の対象者
- 義務教育が終了した満15歳に達した人で、児童養護施設や児童自立支援施設等を退所して就職する満20歳未満の児童
- 大学等に在学中で満20歳未満で入居した児童
ちなみに「満20歳未満で入居した児童」というのは、20歳になる誕生日の前日までに入居した人に限ります。
入居の期限
- 就職者:満20歳まで
- 大学等に在学中の場合:22歳の年度末まで(20歳の誕生日を迎えるまでに入居した人)
概要だけ読んでも「いつまでに退所しなければいけないのか」がわかりにくかったため、自立援助ホームで働く職員さんに満20歳とはいつまでなのかを聞いてみました。
就職している、していないに関わらず、学校に通っていない子は20歳の誕生日の前日までには退所することになっています。フリーターでも、ニートでも。
よって自立援助ホームは、義務教育を終了した15歳〜22歳の子が利用できる施設で、進学している子は22歳の年度末まで、それ以外の子は20歳の誕生日を迎える前日までいられる施設となっています。
②本人が契約し、費用を支払って生活する
これまでわたしは、「自立援助ホームというと、18歳を過ぎた大きい子が暮らしている施設」というざっくりとしたイメージでいました。
しかし、最近になって知ったのは、「そこで暮らしている子は生活費の一部を自己負担し、利用料を支払って生活している」ということです。
まず、契約までの流れを見てみましょう。
対象児童→自立援助ホーム
ホームに入居できる対象者は、義務教育を終了し、何らかの理由で家庭や施設にいられなくなり、働かざるを得なくなった子どもたちです。原則として20歳未満の子どもたちの入居相談に応じます。
対象児童→児童相談所
各都道府県、政令市の窓口、主に児童相談所に入居相談及び入居の申請を行います。
自立援助ホーム→児童相談所
入居については、ホームが受け入れの判断を行い、入居希望をする子どもに代わって、当該自立援助ホームが代理申請を行うことができます。
児童相談所→自立援助ホーム
入居相談を受けた児童相談所は、当該自立援助ホームへ受け入れの可否について確認しなければなりません。
自立援助ホーム→児童相談所
当該自立援助ホームは、入居受け入れの可否を判断し児童相談所にその旨の連絡を入れます。
児童相談所→対象児童
入居希望している本人及び保護者が同意書に記入し、その上で児童福祉法第33条の6第1項の規定に基づき、児童相談所長の委託措置により入居が決定します。
※入居者には、前年度の所得に応じて、利用徴収金が発生します。
児童相談所→自立援助ホーム
児童相談所より、委託措置決定通知書が送られ、正式に入居となります。措置年月日(入居日)ではなく、月の初日付けで措置費が当該自立援助ホームに支払われます。
利用料はいくらかかるの?
そして次に利用料(入居者が自己負担する金額)についてです。
利用料というと家賃みたいなものだし、都道府県や立地によって金額が違うのかな〜?
そう思っていたところ、北は北海道・南は福岡県にある自立援助ホームの利用料の比較資料を見つけました。
ホーム | シーズン南平岸 | 坂梨ホーム | 経堂 憩いの家 | Bits-Unit | かんらん舎 |
---|---|---|---|---|---|
所在地 | 北海道 | 千葉県 | 東京都 | 滋賀県 | 福岡県 |
定員 | 女子6名 | 女子6名 | 男女6名 | 男女9名 | 女子6名 |
利用料 | 4月~10月:30,000円 11月~3月:34,000円 |
30,000円 | 30,000円 | 30,000円 | 35,000円 |
徴収日 | 主に給料日 | 25日 | 給料日 | 前月末日 | 翌月10日 |
自治体最低賃金 | 861円 | 923円 | 1,013円 | 866円 | 841円 |
利用料内訳 | ・居室利用料 ・食費(朝夕) ・水光熱費 ・冬季暖房費 ・共有日用品 |
・食費(朝夕) ※昼食ように残り物や乾麺、おにぎりはサービス ・水光熱費(※1) |
・食費(朝夕) ※所持金の少ない者の昼食については、弁当も含め要相談 ・新聞等の教養娯楽費 ・水光熱費(※1) |
・家賃 ・水光熱費 →9,000円 ・食費(朝夕) →21,000円 ※昼食は残り物や寄贈品の提供あり。 ・インターネット接続費は別途 2,000円/月 |
・家賃 ・食費(朝夕) ・月途中の入退居は日割り 1,150円/日 ・水光熱費 |
※1 外出時の照明、冷暖房のつけっぱなしなど、使い方に問題があり、注意をしても改善がみられない場合は、別途光熱費を徴収する可能性あり。 ※自治体最低賃金については令和元年10月改定の数値に変更 |
第8号(平成29年3月号)全国自立援助ホーム協議会たより
上記の一覧を見ると、共通する利用料の内訳は ①家賃 ②食費(朝夕) ③水光熱費 となっていますが、最低賃金が大きく違う東京都と滋賀県でも同じ金額となっていることがわかります。
また住まいの特徴として、男女共同の場所もあれば、女子のみの場所もあるみたいです。
千葉県の坂梨ホームに記載されている「昼食用に残り物や乾麺、おにぎりはサービス」というところに、なんだか温かみを感じます。
ちなみに、利用料についてどのように金額を決めているのか自立援助ホームで働く職員さんに確認すると以下のような回答でした。
利用料はそのホームが独自に決めて大丈夫なんです。
立地に関係なく、安いところは20,000円〜、高いところは45,000円のところもあります。平均は30,000円くらいかな〜と。
上記の表では大きな差異は見受けられませんでしたが、もう少し広く確認すれば差があるようです。
個人的には、利用料に家賃が入っているので、家賃相場が利用料の差に影響を与える可能性があると思うので(今回の表では東京と滋賀が同じですが…)、また調査をしてみたいと思います。
自立援助ホームで暮らす背景は?
自立援助ホームで暮らす子の対象年齢や退去する年齢、契約して暮らしていることが分かりましたが、一体どのような家庭背景があって入居しているのでしょうか?
全国自立援助ホーム協議会は入居する子たちの背景についてこのように記述しています。
「自立援助ホーム」とは、なんらかの理由で家庭にいられなくなり、働かざるを得なくなった原則として15歳から20歳まで(状況によって22歳まで)の子どもたちに暮らしの場を与える施設です。
全国自立援助ホーム協議会HPより 自立援助ホームとは
「働かざるを得なくなった」という意味は、本人に十分な意欲と能力が備わっているか否かにかかわらず、家族も含め他の援助を受けることができない状況で「自立」を強いられた状況を指します。
この説明通り、自立援助ホームで暮らす子の入居経路は43.4%が家庭から、36.4%が児童福祉施設等から、3.2%が単身でやってきます。(厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査の概要」(平成 30 年 2 月 1 日現在) )
入居する年齢の平均は17.7歳。
退居するまでの在所期間の平均は1.1年です。
入所する年齢の平均は17.7歳…
17歳を過ぎて、家庭にいられなくなった理由とは何なのでしょうか。
まずは調査データから見ていきたいと思います。
自立援助ホームの入所理由を割合の高い順にまとめると ①両親からなんらかの虐待を受けた子 ②児童自身に課題がある子 ③何らかの理由で両親によって育てられない子 ④何らかの理由で親がいない子 となっています。
・児童の問題による養育困難
・養育拒否
・親による放任怠惰
・親の精神疾患
この入所理由のうち、一般的に「虐待」とされる「放任・怠だ」「虐待・酷使」「棄児」「養育拒否」を合計すると、全体で45.5%(前回35.6%)。
また、虐待を受けた経験でいうと、何らかの虐待を受けたことのある子は71.6%と、社会的養護(※)のなかでも2番目に高い割合になっています。
※社会的養護…里親・児童養護施設・児童心理治療施設・児童自立支援施設・乳児院・母子生活支援施設・ファミリーホーム・自立援助ホーム
数値だけではイメージがしにくいので、実際に自立援助ホームを運営している人の言葉を引用したいと思います。
今回記事への引用の許可をいただき、埼玉県にある自立援助ホーム「夢舞台」さんのホームページに記載されている「入居してくる子たちについて」を紹介します。
虐待や貧困、非行などの問題で家庭に居場所がなくなった青少年たちが入居してきます。家庭に問題がありながらも思春期年齢になるまで問題の発見が遅れ、公的な支援の介入が遅れてしまうケースもあります。支援が遅れたことで、より自立が困難になってしまうことは言うまでもありません。
自立援助ホーム「夢舞台」ホームページより
また、入居の理由は、親による放任・虐待が一番高い割合となっています。加えて、他の理由も家庭の問題に起因することが多いことも図2からわかります。
家庭の問題から、学習環境が保証されてこなかったことも特徴の一つです。このことは、自立援助ホームに来る青少年たちが、ホームに来るまでいかに過酷な生活を送って来たのかを物語っています。
親はいるの?いないの?
では、家庭にいられず、自立援助ホームで暮らしている子の親子関係はどうなっているのでしょうか?
保護者の状況について、厚生労働省の「児童養護施設入所児童等調査の概要」(平成30年2月1日)によると、
両親またはひとり親がいる子が91.7%、両親ともいない子が6.3%、両親とも不明の子が1.6%となっており、児童養護施設と同様、9割の子に親がいることがわかります。
ちなみに5年前の調査では「両親またはひとり親あり」の子が71.5%でした。数字だけでは何ともいえないけど、この変化も少し気になるな〜
しかし、その一方で、家族との交友関係について、交流のある子が44.0%、交流のない子が47.4%となっており、交流のない子のほうが多くいることがわかります。
親がいても交流がない。
この事実はわたしが思っている以上に、複雑なものだと受け止めています。
ちなみに家族と交流のある子271人のうち、電話・メール・手紙のやりとりをしている子が52.8%、面会が26.6%、一時帰宅が20.7%となっています。
しかし、交流があったとしても、保護者のもとへ帰る子は全体の4.9%なので、退所する20歳〜22歳までは働きながら、利用料を支払いながら、社会へ旅立つ準備をしていくことになります。
児童養護施設の子は、交流のある子が71.6%、交流のない子が19.9%だったから逆転してるのか、、、
この親との交流の有無の差が、同じ児童福祉施設であっても、児童養護施設との大きな違いであると思います。
まとめ
それでは、今回の記事のまとめです!
- 自立援助ホームは義務教育を終了した15〜20歳(状況によって22歳)の子が暮らしている施設
- 安くて20,000円〜、高くて45,000円の利用料を支払って共同生活をしている
- 入居する年齢の平均は17.7歳で在所期間の平均は1.1年
- 家庭からの入居者が一番多く、他の児童福祉施設から入居する子もいる
- その背景には、親からの虐待・貧困・非行などの理由がある
- 91.7%の子に両親またはひとり親のいるが、一方で家族との交流のない子が47.7%となっており、親がいても交流のない子がいる
いかがでしたでしょうか?
今回初めて、自立援助ホームの現状を知って一番驚いたのが「親がいても交流のない子が多くいる」ということでした。
自立援助ホームに入居すると親との交流がなくなるのか、それとも児童養護施設の中でも親との交流がない子が自立援助ホームにたどり着くのか…
もちろん調査したわけではないのでわかりませんが、わたしは後者ではないかと考えています。
そうすると、自立や貧困と親との交流の有無には何かしらの深い相関があるのかもしれませんね。
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YouTubeにて「親の同意は絶対なんですか?」というコメントがありました。それについてお答えいたします。
>入居契約に関しては、基本的に本人および親権者の同意が必要です。ただ、本人にとって明らかに不利益になると思われる場合に関しては必ずしも親権者の同意が必要ではなく、実際には親権者の積極的な同意をとっていないケースもあります。
※自立援助ホームで働く職員さんの見解です。